Netflixドキュメンタリー『メンデス兄弟』 ※性虐待に関する内容あり 

1989年、セレブの住む憧れの地ビバリーヒルズで、裕福な家の兄弟が両親を殺害する事件が起きた。遺産目当ての単純な犯行と思われた事件の複雑な背景と、メディアスクラムの中で行われた裁判の経過を追うインタビュー集。

<以下ネタバレ>

Netflixで最初に警告が表示される通り、事件の背景には父による兄弟への身体的、精神的、性的な虐待があった。兄弟は幼少期から暴力を伴う抑圧的な扱いを受けており、6歳頃には性虐待が始まる。母は事実を知りながら兄弟を守ろうとしなかった。逃げ場のない環境で、父が弟の独立を許さなず、一生離さないと宣言したことから惨劇は起きたのだった。
これだけでも悲惨極まりない話なのだが、裁判によって兄弟が虐待被害を打ち明けたあとの世間の反応がまた酷い。豪邸に住む成功者の白人男性は虐待親や性犯罪者のイメージからかけ離れており、身なりの整ったお坊ちゃん兄弟もまた性被害者のイメージとはかけ離れていた。そのため、メディアが注目する中での二人の告白は"演技"として笑いの対象になった。当時のバラエティ番組がいくつか紹介されるのだが、まあちょっと見ていられないくらい酷い。
→続く

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Netflixドキュメンタリー『メンデス兄弟』 ※性虐待に関する内容あり 

殺したこと自体は兄弟が認めており、死刑もあり得る第一級殺人か、故殺罪かという量刑が陪審員評議の争点となった。ここでは性別によって判断がきっぱり分れたという。
男性は全員が単純な第一級殺人と判断し、女性のほとんどは兄弟に同情的だった。陪審員を務めた女性の一人は「男性たちは、父が息子を性的に虐待するという事実が理解できなかったようだ」と話す。結果、一カ月に及ぶ評議でも結論は出ず、裁判はやり直しとなる。
ここでまた信じられないのは、有罪にできなかった"汚名"を濯ぐために、二度目の裁判では過去の性被害に関して論じることを判事が禁じたことだ。陪審員は量刑ではなく、第一級殺人での有罪か、無罪か、の二択を迫られることになる。

裁判の結末はググれば出てくるので書かないが、作品内でも述べられる通り、男性への性被害やサバイバー特有の思考/行動パタンが多少なりとも理解されてきた今であれば、まったく違う結末になったことは間違いないと思う。裁く側の無知によって新たな悲劇が起きてしまう事実にズシンと重い気持ちになる一作だ。

同じくメンデス兄弟を題材にしたドラマ『モンスター:メンデス兄弟』もNetflixで配信されていますが、こちらはあまり評価が高くなく、当事者からは批判が相次いだようです。私は未見。たぶん今後も見ない。

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