コロナ禍に“不要不急“を削ぎ落とした結果、残った職業はいずれも低待遇にあえぐエッセンシャルワークだった。一方で経済活動の制限によりベニスの水路が透明度を取り戻し、中国の大気汚染は短期間で改善。私たちの「当たり前の暮らし」は人や環境から搾取することで成り立っている。
けど、この三年ほど「当たり前の暮らし」は“失って気づく大切なもの“としてエモーショナルに価値付けられ、それを取り戻すことは無条件によきこととされてきた。
今、コロナは終わったことにされ、各地で祭りが再開し、甲子園野球は酷暑のなかで従来通り開かれている。旧態依然とした生活に戻ることが苦境を乗り越えた証であるかのように語られ、エッセンシャルワーカーという言葉は忘れ去られ、ポストコロナと口にする人はどこにもいない。「当たり前」からあらかじめ排除されてきた人々、例えば元から気軽に外食することができない人々の姿はついに認識されることさえなかった。
「当たり前の暮らし」を心地よく享受できるのは誰だろうか。「当たり前の暮らし」を支えているのは何だろうか。「当たり前の暮らし」が犠牲にしているものにこそ目を向けたい。