ジョン・スラデック『チク・タク×10』(鯨井久志訳、竹書房文庫) ややネタバレ有り、ピカレスク注意
まずは【商品内容】のキャッチコピーをよく読んでください。家庭用ロボットのチク・タクが老若男女をどんどん手にかける、ピカレスクでノワールではちゃめちゃな物語です。
https://www.takeshobo.co.jp/book_d/shohin/6039601
差しはさまれる回想ではチク・タクが仕えたひどい職場や家庭が描かれます。40年前の本の初邦訳ですが、芸術や政治の腐敗も、奴隷やブルーカラー労働者への仕打ちも現在と変わりません。
主人公は『オズの魔法使い』に登場するブリキの木こりと同名です。ブリキの木こりが心を欲しがっていたことと、チク・タクが愛を欲し、正義の執行を信じたくも裏切られる(最後の展開と、チェス勝負のところ)対照にも要注目です。破られているのはアシモフの三原則だけではありません。アメリカン・ドリームの終わり、社会契約や労働契約の不履行や不公平。最初にルールを破ったのははたしてどちらか。『オズの魔法使い』でも達成に対して本物の報酬は支払われない点を思い出しましょう……
敗北しなかったことで、賭けに負けたエンドかなって思いました。試合に勝って勝負に負ける的な。