ローラ・ヴァン・デン・バーグの短編小説「相続」(柴田元幸訳、MONKEY30号)の不穏さと不可解さが好きでした。2022年に発表された作品で、コロナ禍や近年のムードを強く反映しています。
義父(母親の元恋人)が遺したメキシコの邸宅にやってきた主人公。疫病の拡大、アメリカで内乱が起こっている噂、飛行機事故の噂、物体複製マシーンの実現、図々しく館への滞在を主張する女性……どれも素敵な邸宅の内部での閉ざされた生活からは遠く、確かめようがないことです。
メタバースのカナダ人コミュニティで、ノヴァスコシアの村のレプリカに集まっているという隣人が登場するのですが、その発言もうわごとのように響きます。ライラックを育てているとか、村を買おうとする業者に対抗しようとしているとか一体どこまで本当なのか。
よるべない、不安な感覚が独特です。おすすめ。