座布団
「そこの座布団を枕代わりにでもするといい」
「………………あの煎餅をですか?」
「僕の心遣いを無下にする気かい?」
「うわ、これ変色してるじゃないですか。元からこんな色なのかと思ってましたよ」
「元からそんな色だったよ」
「……風間さん、この座布団って何年物ですか?」
「さあね。少なくとも僕より長くここに住み着いている事は確かだ」
「そんな座布団よく使えますね」
「何、座れば同じさ」
「僕はこれからそれに頭を乗せようとしているんですけれど」
「何事も経験だよ」
「世の中には経験すべき事としなくていい事があると思うんですよ」
「じゃあ僕はこのふかふかの布団で寝かせてもらうよ」
「その布団も大概煎餅ですけれどね」
「おや、人の布団にケチを付ける気かい?」
「それぐらいの権利はあります」
「権利が欲しけりゃその座布団に頭を乗っけて寝るんだね」
「………………」
「いやあ、君は本当にいい顔をするね」
「そういう台詞は僕が笑顔の時に言って欲しいですね」