花街パロなんですけど
可愛い売れっ子の元にまめに通ってきてた大店のご隠居がある日ぷつっと来なくなった
数日前に火事ががあったのは知っていた
ご隠居が譲った店があるあたりだけど隠宅はまるで方向が違うし、譲った店にのこのこ顔を出すような野暮はしないと以前から言っていたから火事に巻き込まれたのではないだろう
もしかすると店が焼けてしまったから、奉公人や家族の世話をするのに忙しくしているのかもしれない
そう思いながら清光は待ったけど、待てどくらせどご隠居は来ない
毎日のように出す文にも返事はない
これはもしや飽きられたのだろうかと思いながら見世に出て、そこで他の客からあのご隠居が亡くなったことを聞かされた
やっぱりあの火事が原因らしい
清光はその日、朝まで泣いた
好きだったのだ
叶わないとわかっていたけれど、目配せひとつ、吐息ひとつに胸の中が嵐が生まれるような激しい恋だった
明け方にうたた寝をしていた清光は窓にこつりと小石の当たる音で目が覚めた
二階の窓から見下ろすと見世の前の道にご隠居がいる
死んだなんて嘘だったんだ、よかったまた会えた、と清光は泣き笑いで窓から飛び出した
花街パロなんですけど
妓楼一番の売れっ子が消えたという話はあっという間に街を駆け巡った
清光が遺したのは窓辺に脱ぎ捨てられた椿の打掛ひとつだった
あとは何もなかった
楼主は血眼で探させたが、足跡を辿れたものはなかった
大門の張番が連れ立って歩くふたりの後ろ姿を見たらしいという噂が流れてすぐに消えた
街はとうの昔に消えたが、今も時折、むつまじく連れ立って歩くふたりの姿を見る者があるらしい