6月の企画参加(できた!)作品です。タイトル「からげる指先」お題「指」ふしぎな指貫でもって針を進める紳士のこと。加賀の指貫はあんなに綺麗な上に実用もできるんだとか…
お題は「毎月300字小説企画」さんより…twitter.com/mon300nov#kikimory #創作
『からげる指先』
ほつれて暴れる自分の影と取っ組み合いになっていたところ、三揃いの紳士がその襟首を掴んで捕まえてくれた。「このままではお困りでしょう」 紳士は仕立て屋であった。鞄から道具箱を取り出すと、糸巻きから引いた美しい糸を優雅に指に巻き付けた。「昨晩の夢を三回し。明朝の展望を十と一回し。いつかの悔恨はほんの少し」 色彩踊る糸の環に後押しされた針は、たやすく影の端を掬う。瞬く間に影は私の元に縫い留められた。 見事な手際を讃えれば、紳士は控えめに微笑んだ。手元の指貫から糸がほぐれ落ち、光る塵となって消えて行く。 私は深々と頭を下げて、立ち去る紳士を見送った。大人しくなった影もまた、そうした。
#創作 #小説
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『からげる指先』
ほつれて暴れる自分の影と取っ組み合いになっていたところ、三揃いの紳士がその襟首を掴んで捕まえてくれた。
「このままではお困りでしょう」
紳士は仕立て屋であった。鞄から道具箱を取り出すと、糸巻きから引いた美しい糸を優雅に指に巻き付けた。
「昨晩の夢を三回し。明朝の展望を十と一回し。いつかの悔恨はほんの少し」
色彩踊る糸の環に後押しされた針は、たやすく影の端を掬う。瞬く間に影は私の元に縫い留められた。
見事な手際を讃えれば、紳士は控えめに微笑んだ。手元の指貫から糸がほぐれ落ち、光る塵となって消えて行く。
私は深々と頭を下げて、立ち去る紳士を見送った。大人しくなった影もまた、そうした。
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