きっと彼女の67の茶バネ小話
アルウェスが視界の端でそれが動くのを気付いた時、ナナリーは右手にハエ叩き、左手にスプレータイプの殺虫剤を握り締めていた。悲鳴をあげることもなく、その目はスナイパーかのようで。腕を伸ばしてそれに殺虫剤を向ける。シューとスプレーから噴射される音。
「うおりゃ!」
勇ましい声に気持ちいいぐらいの叩く音。「よっしゃぁ!」なんて喜ぶ声、全てがアルウェスの愛する妻からのものだった。
「僕に言ってくれれば処分するよ」
「お坊ちゃんのアンタよりも私のが仕留められるに決まってる」
たしかに名前とどういう虫かは知っていたが、実物はナナリーの実家で初めて見た生き物だったが。
「とりあえず駆除薬買ってこようか」
「そうね」
こんな口実はどうだろうと思いながらもアルウェスは妻との買い物デートの口実を手に入れた。