「我々動物の文明が大きな技術発達を起こした理由として、カルスト地帯で見つかった絶滅種『思念樹』を外すことはできないだろう。現在では特殊な菌類のコロニーではないかと推測されている思念樹は、一見すると岩の塊にしか見えない。その真価がわかったのは、統一歴前400年ごろである。」「当時、散逸しそれぞれが独自に発達を遂げていた各種族の文明は、互いに干渉しながらも密な交流はなく、部分的に合致した語彙を用いた不完全な言語コミュニケーションが行われていた。とあるきっかけによって思念樹が作用し、各種族の言語を相互に翻訳したことは、我らの文明の革命となった。」

「思念樹は個体数こそ少なかったが、様々なカルスト地帯に少数ずつ生えており、更に、現在では全球的な菌糸の繋がりとされる効果によって遠方との会話もできた。言わば現代で言う翻訳機や通話機のような能力があり、最後の株が死滅するまでに、我々は統一言語を作ることができた。」

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「統一歴として我々動物が共通の時間感覚と言語を得た後の輝かしい歴史は語るまでもないだろう。現存こそしないが、思念樹は我々の初期の歴史そのものといっても過言ではない。
余談だが、思念樹が効果を出す契機となったとされる、オウム種の当時の族長が代々伝えてきた『音』が残っている。」

「統一言語では意味を伺うことはできないが、オウム族の長がこの呪文を思念樹に発したことで、思念樹は効果を発揮したと言う。散逸文明以前からの文化が我々の文明を後押ししたと考えると、感慨深い。最後にこの音を文字起こしして、筆を置こうと思う。
『リング・ナンテイッテルカ・ホンヤクシテ』」

「高等教育課程向け歴史教科書・統一歴1990年版コラムより抜粋」

LING
とある多国籍ソフトウェア企業が開発し、低価格で量産され、メンテナンス費用を定額で徴収しながら多くの都市に設置された大型の多機能公共ITサービス筐体。機能には他の筐体との通信や、AIによる学習言語翻訳も可能。コンポスト発電で稼働するのでノーメンテナンスでも1000年ほどは保つ。

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