その点,対人タイプの人間であるストロースは,人前で恥をかかされたという過去を根に持ち,それが呪いとなって取り憑かれた結果,物事を,それが相手への復讐になるかどうかというフィルターを通してでしか世界を見ることができなくなり,まともな認知すらままならない 作中で最も「人間的」な人物である.けれども,オッペンハイマーもまた,自分にとって心地のいい科学にのめり込み,理論計算を如何に実践するかという現実しか見なくなった結果,原爆を作ってしまった.そこでは,「道徳」,「倫理」,あるいは崇高な「論理的な人間」という,後から考えた言い訳は全く機能しない
「オッペンハイマー」は,絶対悪を作って,単なる2項対立で完結させるのではなくて,もっと根源的な問いを立てている.