GRANTAに掲載された“Manifest”でも強く感じたが、女性の皮膚感覚、なかでも広義の違和感を掬い上げる手つきは卓越していると思う。体からはじめて母乳が流れ出る「光景」を主人公はほとんど他人事のように冷静に観察するが、本篇にあっては自分の身体とその外側との境界線は、つねに揺らいでやまないものとして描かれる。「自分のこのからだはほんとうに自分のものなの?」という感覚を一度でも抱いたことのある人にこそ読まれてほしい。
Nightmare Magazineに寄せた掌編“Things Boys Do”では赤ん坊はビクスビイ「きょうも上天気」やエムシュウィラー「ベビイ」にあらわれる〈恐ろしいこどもたち(アンファンテリブル)〉のように周囲の人間を破滅におとしいれる、あるいは混乱を意に介さず自身の愉楽を貪る無邪気な存在としてあった。けれども本作は悪夢的な結末のあるアイデアストーリーではない。勇敢なる自身の母親との交流、そして和解を前提としたパートナーとの小さくも重要な対話を通し、母としてのアイデンティティをゆるやかに獲得していく結尾に一級の文学と認められうる美点が存するといえる。(了)