お題:「対話を取り戻すこと」

原子力に関する問題では、言論の硬直化が大きな問題だ。

先の安東量子さんの指摘のように、(A)「原発反対派を論破すること」「原発デマを退治すること」に特化した言説か、(B)「原子力ムラ」をあらゆる点で非難する言説かに2極化している。対話が成立しない。

言論が硬直化しているため、民主主義の基本である「議論して社会的合意を取る」ことが非常に困難になっている。そこで「反対派など無視して勝手に推進しよう」という結論になりやすい。

この状況を改善しようという議論はなくはない。311の後に、原子力のような社会的影響が大きな分野では、科学技術の専門家だけでなく社会科学、人文学の専門家らも知恵を出し合うべきだと唱える「トランスサイエンス」への関心が高まった。だが、この取り組みが進展して成果を挙げたという話は聞こえてこない。

私も「壊れた対話を取り戻す」というタイトルで記事を書いたのだけど(『世界』2024年2月号)、残念ながら世の中を動かすには至っていない。

「対話を取り戻す」ことは、私たちが「人らしく生きること」を取り戻すことでもある(民主主義への参加は人権の不可分な一部なので)。少しでも前進するよう、あがき続けたい。

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追記:
「対話を取り戻す」という言葉を使った理由について少し補足を。

言論が硬直化、あるいは両極化している分野では、次のような伝統的な言論のスタイルだけでは問題が解決されないという事情があります。

- 正しい知識に基づく吟味されたわかやすい説明で理解を促進する
- 権威ある団体のお墨付きをもらう
etc.

自分の意見では次の2つの段階が求められます。

第1段階は壊れた対話の修復。いわばグループセラピーです。

日本の原子力災害の被災地では、"IDPAメソッド" というものを用いて、対話の修復を図る取り組みが続いています。(詳しくは安東量子さんたちの活動を参照)。

違う分野では、脱カルトの取り組みにも一種のグループセラピーの側面があると考えています。

まず対話を、共有できる言葉を取り戻す必要があります。そのうえで、はじめて第2段階——意見が違う人々が話し合い批判しあい合意を図るプロセス、すなわち政治を機能させることができると考えています。

(詳しくは、『世界』2024年2月号「壊れた対話を取り戻す」を参照)

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