伊藤昌亮、「石丸現象とTikTok——若者世代のリアリティ」(岩波『世界』2024年9月号)は、自分にとって興味深い内容だった。伊藤は『ネット右派の歴史社会学』の著者。
都知事選で2位につけた石丸伸二候補の人気を分析するため、TikTokの「石丸動画」のうち「いいね」数1万以上を獲得した128本を分析した。都知事選の投票日前に公開された動画では、「自己啓発的な若者応援」と「若者の成功を阻害する老害の批判」が多くの「いいね」を獲得していたことが分かった。
現代の若者の多くは世の中のシステムを改善する発想にリアリティを持てず、現状のシステム内での自己実現に関心がある(=若者の多くは政治的ではない)。その非政治的な若者層の共感を獲得することに成功したと分析する。
石丸候補は弱者への福祉を語らない。ネオリベラリズムが内面化されている。一方で、文化的には小池百合子のような極右ではなく、関東大震災で虐殺された朝鮮人の追悼式典への出席を表明したり、上野千鶴子の著作を評価したりする。このような態度(経済右派、文化左派)は、実は日本の企業社会ではごく当たり前である。
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なお、石丸は「女子供」発言に見られるように内面では女性を見下ろしているが、建前では男女平等と多様化の尊重を唱えつつ本音では女性を見下すこともまた、日本の企業社会でよく見られる態度ではある。
まとめ:
石丸候補は、選挙後にバズった動画を見るとマスメディアに対して異様に攻撃的な人物に見えるが、選挙前にバズった動画を分析するなら、非政治的な若い世代が共感しやすい自己啓発や老害批判のメッセージが中心だった。
感想:
「デスゲームをうまく戦ってきた大人」であり「デスゲームの戦い方を若者向けに指南」する石丸にリアリティと共感を感じる層が、「デスゲームはおかしい。変えよう」と唱える蓮舫候補の支持者よりも人数が多かった。これは重大な指摘だ。