「現実は残酷なんだから空虚なエセヒューマニズムの出る幕はないんだ」
このような種類の言説をどこかで見聞きしていないでしょうか。これは誤謬です。理念と現実の区別が付いていません。
第2次世界大戦後の国際社会は、現実が残酷であるからこそ、ヒューマニズムに基づく理念が必要だと考えました。そこで合意された理念が人権。国際人権システムは、現実を理念に(少しでも、ゆっくりでも)近づける活動をしています。
残念ながら、このような理念と現実を混同する誤謬に巻き込まれている人はまだまだ多い。そして「理念を故意に無視する」こともまた「故意の無知」の誤謬です。私は、その背後には19世紀の人種差別論から続く反ヒューマニズム言説の蔓延がある、と考えています。
ヒューマニズムも、反ヒューマニズムも、人文学から出てきた思想です。最近の流行は、反ヒューマニズム思想を強化するため功利主義の極端な使い方をしたり、自然科学(進化、遺伝)や統計を持ち出すこと。これは倫理学への故意の無知、そして自然科学や統計の誤用だと考えます。そもそも、自然科学も統計も価値中立で、なおかつ常に反証可能性に開かれているのですから。
私の個人的な思いとしては、人文学の学徒の方々は、ぜひ反ヒューマニズムという「精神の毒」と戦ってほしいと思っています。