本日8月24日、福島第1原発の核物質で汚染された排水をALPSで処理し海水に薄めたもの(いわゆる「ALPS処理水」)の海洋放出が始まった。議論が割れやすい題材だし、SNSに書くことに意味があるのか——という思いは拭えないが、現時点の自分の考えをメモ。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20230824/k10014172381000.html
https://mainichi.jp/articles/20230824/k00/00m/040/049000c
まず、漁協や海外諸国の異議を聞かない形での放出決行は残念。以下、箇条書き。
(1) 決定プロセスの正当性に疑問がある。核廃棄物の海洋投棄を禁じる国際条約に違反し、また「理解なしに放出しない」との漁協との約束にも違反。周辺諸国(韓国、中国、台湾、マーシャル諸島、フィリピン、等々)の反対意見も無視した格好。
(2) 科学的・技術的には、東京電力が発表するALPSの性能——ALPS処理水の放射性物質濃度の実測値が事実であるなら、計画通りに海洋放出をする限りにおいては、非常に低レベルの放射性廃棄物が環境中に放出されることになるものの、深刻な汚染にはつながらないはずである(なお低レベルだとしても核廃棄物の放出に反対する声があることに留意)。原子力技術の専門家集団であるIAEAは、東京電力のデータに基づきそのような結論を出した。
(続く
8/24にドイツのLamke環境大臣は、この日始まった福島第1原発からのALPS処理水放出を「強く批判」した。
興味深いことに、前日8/23のドイツ政府の記者会見で環境省スポークスマンは違うニュアンスで答弁した。
https://www.bundesregierung.de/breg-de/aktuelles/pressekonferenzen/regierungspressekonferenz-vom-23-august-2023-2215686
質問:放出計画に対する連邦政府の見解は?
環境省(BMUV)のスポークスマン:(大意)1リットルあたり1500ベクレルを下回る放出は、日本の責任ある当局の立場からは環境への影響はごくわずかと見なすことができる。
私たちの当局(ドイツ環境省)もこの手順全体を注意深く見守っている。放射線の観点からは、この浄化された冷却水が福島第一原発の廃水タンクから海に放出されることは、計画通り長期間にわたって拡散されれば無害である。
(略)
(日本の水産物について)日本から輸入される製品は地面からも水からも無害と分類されていることを私は知っている。
感想:微妙なニュアンスだが、政府の答弁は「計画通りなら環境への影響はわずか」。これはG7に共通する合意だろう。
一方、環境大臣としての見解は「他のすべての手段が閉ざされた場合のみ海洋放出が可能」「現場の人々は決定に関与しなければならない」。
政府見解とは別に、この見解を大臣名で公表したことは重いことだ。
上記情報を並べるだけだと混乱するかもしれないので、少し整理しておく。
ALPS処理水のような低レベル放射性物質の放出を「無視してよい誤差」と見る楽観論を立場A、「未知のリスクで避けるべき」と考える慎重論を立場Bとしよう。
G7各国(ドイツ含む)の政府公式見解は、「科学的には、IAEAがレビューしたように、計画通りの放出であれば、ALPS処理水放出はほとんど無害」、つまり「立場A」だ。「計画通りなら」など言葉を選んでいることに注意。
いっぽう、ドイツのLamke環境大臣の意見は、立場Bである。予防原則に則り、低レベルであっても環境への放出は最後の手段とするべきとの意見だ。また、ステークホルダーとの合意プロセスの透明性を守るべきとも言及している。
ドイツのスタンスは微妙だが、ざっくりいうと「政府として反対まではしないが、100%の支持ではない。批判もする」という立場だと考えた方がいいだろう。