〈Abstract〉 「何年も前に、エマニュエル・トッドは家族類型の分類を提案し、ある社会における歴史的に優勢な家族類型は、その経済的・政治的・社会的発展に重要な結果をもたらすと論じた。ここで我々は、トッドの最も重要な予測を経験的に評価する。外生的な共変数を持つ倹約モデルに依拠して、我々は両方の(mixed)結果を見出す。一方で権威主義家族類型は、トッドの予測とは完全に対照的に、法の支配と核心のレベルの増加と結びついている。他方ではトッドの予想の通りに、共同体家族類型は、人種差別主義や低いレベルの法の支配、そして遅い産業化とリンクしている。内婚が頻繁に行われている国もまた、予想通りに高レベルの国家脆弱性と弱い市民社会組織化を示す」p.101.
〈1. Introduction〉 「当時ほとんどの経済学者は文化や家族組織に関心がなかったので、トッドの主張は彼らの学説においては概ね無視された。最近になってやっと、経験的経済学者が彼の著作に興味を持つようになった」p.102.
・Duranton et al.(2009)…絶対核家族で特徴づけられる地域はそれ以外の地域と比べて世帯規模がより小さく、教育水準が高く、雇用レベルやソーシャル・キャピタルが高く、サービス部門が大きく、経済がダイナミック
・Dilli (2016)…核家族世帯構造で特徴づけられる国はより民主主義的
・Broms & Kokkonen (2019)…1人の嗣子を選好する継承レジームは、私有財産権や社会的信頼や質の良い制度を発展させやすい。信頼が不平等継承ルールから移転するチャネル
・Schulz (2020)…同族婚が禁じられている国では他の国よりも民主主義スコアや政治参加率や制度の質がかなり高い。p.103.
〈2. Theory〉
トッドから導出される仮説1「核家族に支配される社会は他の社会よりも、人種差別主義のレベルが低い」
仮説2「内婚制家族類型に支配される社会のメンバーは、他の社会のメンバーよりも、自分自身の人生へのコントロールが低いと感じている」
仮説3「内婚制家族類型に支配される社会は他の社会よりも、強い国家構造を形成しにくい」
仮説4「権威主義家族類型に支配される社会は、他の社会よりも低い法レベルを示す」
仮説5「権威主義家族類型に支配される社会は他の社会よりも、連邦的に組織されやすい」
仮説6「核家族類型に支配される社会は、権威主義家族類型に支配される社会よりも、より頻繁な政府の転覆(turnover)を経験する」
仮説7「核家族類型に支配される社会は他の社会よりも、より活力ある市民社会を持つ」
仮説8「核家族類型に支配される社会は、他の社会よりも産業化が早い」
仮説9「核家族類型に支配される社会は、他の社会よりも革新的である」
仮説10「権威主義家族形態に支配される社会は、共同体家族ないし核家族形態に支配される社会よりも、所得不平等のレベルの低さによって特徴づけられる」pp.103-7.
〈3. Data and estimation approach〉
「権威主義家族類型は、たとえこの家族類型が歴史的に成人した息子が親と暮らすことにより特徴づけられるとしても、驚くべきことに最も弱い家族紐帯と結びついている。少なくとも内婚共同体家族類型は、この特質を共有しつつ、全ての家族類型の中で最も強い家族紐帯を示すことを確証している。…内婚共同体家族類型が他のいかなる家族類型よりもイトコ婚を多く示すのは驚くべきことではないが、しかしそれに外婚共同体類型(そしてアフリカ/アノミー的家族類型)が続いており、そのことは共同体家族間の比較が、内婚の帰結を同定する良い方法ではないことを示唆する」p.108.
<4.2 Family types and state formation>
「我々は、内婚制が[国家形成の]障害物であるという議論に何の支持も見出さない。核家族ないし権威主義家族類型に支配される国は最も早期の国家形成を示し、それに共同体家族形態が続き、それはアフリカおよびアノミー的家族形態の家族よりも早く国家を形成した。
過去の国家から現代の国家脆弱性に移ると、我々は、核家族および権威主義家族形態が最も脆弱でなく、内婚共同体家族類型に支配される国家が他よりも脆弱であることを見出す。内婚と外婚共同体家族の違いは統計的に有意でないが、<表3>で描かれたように、外婚共同体類型は2番目に高い内婚を実践していることに留意すべきである。現代の政府有効性に関しては、共同体家族類型が再び最もパフォーマンスが悪い。興味深いことに、権威主義家族類型の国の政府は、飛び抜けて有効な政府を持っている。この発見のあり得る解釈は、もし(国家)権威の受容が規範化されていれば、政府が有効になるのはより容易だというものだ。全体として、経験的証拠は仮説3と一貫している。内婚を実践する社会は国家を形成するのが遅くはないものの、高い正当性ないし有効性を有する強い国家をもたらすことが難しかったのだ」pp.110-2.
<4.4 Family types and post-constitutional outcomes>
「<表7>は、産業化のタイミングに関わる仮説8だけが、データから支持を見出すことを示している。内婚共同体類型に支配される国が、再び注目に値する。それらの政府は最も長く権力に留まり、市民社会が最も弱く、産業化は共同体家族類型でない国よりも遅く生じた。再び、共同体家族類型は発展の有害転帰とリンクしている」p.113.
〈5. Conclusion and outlook〉
「トッドの大雑把な主張の多くは、我々の体系的な経験的分析により確証し得ない。
権威主義家族類型に関する仮説の大部分は論駁された。理論では、この家族類型は、個人的自由をほとんど推進せず不平等を受容する価値を具現化している。それらの価値はフランス革命により推進された価値、すなわち個人の自由と万人の平等と反対の極にある。しかしながら、我々の結果は、権威主義家族類型に支配される国の人々が核家族類型に支配される国よりも、より革新的で、より高い法の支配レベルとより有効な政府の双方を実行してきたことを示している。権威主義家族類型が支配する国はまた、再分配後の最も低い所得不平等レベルを達成している。
もう1つの注目に値する観察は、2つの共同体サブカテゴリー(内婚および外婚)が多くの問題を共有していることである。すなわち両者とも、より大きな人種差別主義、低い法の支配レベル、遅れた産業化と関連している。これらの国が革新において初めは享受した優位性は、現在では不利に転じてきた。内婚共同体家族類型が、外婚共同体類型よりも有意にパフォーマンスの低い結果変数が2つある。国家脆弱性と市民社会である」p.115.
「核家族は、アフリカおよびアノミー的家族類型の対照カテゴリーに勝るが、しかし近代においてのみである。より重要なのは、核家族類型に支配される国が、2000年前の技術導入において世界の他地域に有意に遅れをとったことである。追いついた後、今では他の国を有意に凌駕しているのだ。…権威主義家族類型はさらに大きな革新性を示し、過去2000年間に核家族類型を一貫して凌駕した。共同体家族類型は特に興味深い時間トレンドを示す。それらは中世までは高度に革新的だったが、紀元1500〜2000年の間の時期を通じてこの優位性を完全に失った。この発見は[イスラーム地域の]『幸運の逆転』を思い起こさせる。…要約すれば、仮説9は、核家族類型が支配する社会が他の社会よりも革新的であるという意味で、我々の発見により支持される。しかしながら、権威主義家族類型が支配する社会はさらに革新的である」pp.114-5.