〈Abstract〉
「地位の非一貫性の個人へのストレスフルなインパクトを、心理学的動揺(disturbance)の指標としての発現した心理生理学的症状を用いて、全国調査データで検証する。職業ないし学歴ランクよりも上位にある人種ー民族ランクに起因する非一貫性は、症状の高いレベルと結びついている。非一貫性の逆のパターンはそうではないものの、先行研究では、政治的リベラリズムと結びつくことが示されてきた。これらの発見は、次のことを意味するものと解釈される。すなわち、地位の非一貫性の全ての形態が心理学的に動揺的であるが、しかしこのストレスへの反応は、非一貫の人の達成ないし帰属された地位ランクの相対的な位置や、達成された地位自体によって変わる。また性は、職業ー学歴の非一貫性への反応に影響を与えるようだ。これらの発見は、社会階層の多次元的な見方に支持を与える」p.469.
「葛藤する期待というこの中心的問題から派生する2つの一般的帰結、その双方はさらに心理学的ストレスを生み出す。最初の帰結は<フラストレーション>である。他人の期待が部分的には矛盾するので、地位の一貫しない人はそれらの全てを満たすことはできず、期待を裏切られた他人からはネガティブな制裁を受ける。…そのような状況は例えば、Aがある地位次元ではBより上で、もう1つの地位次元ではBより下である時に起きるかもしれない。つまり、どちらも他方から、下だと見なされたくはないだろう。地位の一貫しない人はしばしば、自分の社会関係においてこのようにフラストレーションを抱えるだろう。一貫しない者の願望がしばしば高いランクによって惹起され、次に低いランクのために阻害される時には、フラストレーションは特に深刻になるかもしれない」p.470.
「地位の非一貫性と症状レベルの結びつき仮説は、一貫した者と鋭く一貫しない者の間の統計的な有意差によって支持される。[職業・学歴・民族それぞれの3段階地位ランクで]一貫した者[111、222、333]と緩やかに一貫しない者[112、323等]の間には、そのような[有意]差は現れない。
2ランク逸脱している者[113、313等]と、似たランクがない者[123等]の間の[有意]差は予測されなかったものだ。…似たランクがない者は、自己イメージを中間ランクに基づいて調整し、かくして高いランクと低いランクを、互いにではなく中間ランクから隔たったものと見なすのかもしれない。中間ランクはまた、他人の期待を動員するための主要なベースとして機能するのかもしれず、これにより、高ランクおよび低ランクにより影響されるものとしての当人の行動ないし能力との葛藤が減ずる傾向があるのだろう。それゆえ、似たランクがない人は、2ランク逸脱している者よりも心理学的ステレスが少ないのかもしれない。2ランク逸脱している者は彼らよりも、自分の地位ランクが動員する期待の間の葛藤を容易には避けられないはずだ」p.473.
「表4は、鋭い地位の非一貫性(似たランクがないグループと2ランク逸脱したグループを合わせたもの)が、症状レベルと、そしてレンスキの研究から政治的リベラリズムと関連することを示す。
表4は、鋭い地位の非一貫性のそれらの形態(R/OおよびR/E)が症状の有意に大きい差と結びつく一方で、地位の一貫性が政治的リベラリズムにおけるあったとしても小さな差としか結びつかないことを、はっきりと示している。そして、本研究において症状レベルに全く効果を及ぼさないとわかったパターン(O/RおよびE/R)こそが、<まさしくレンスキが、政治的リベラリズムに最も大きなインパクトを持つことを発見したパターンである>。これら比較された発見は、次のような想定をすれば最も良く説明できるように思われる。すなわち、<地位の非一貫性の全ての形態は当人にとってストレスフルではあるが、非一貫性が高い人種ー民族的地位と低い職業ないし学歴地位による人がストレスに心理生理学的に反応する一方で、非一貫性の逆パターンの人は政治的に反応する>」p.476.
「今や、なぜこれら特定の非一貫タイプが、これら特定のストレス反応を選択する傾向があるのかを説明する必要がある。1つの可能な説明は、<一貫しない者の達成地位ランクと帰属地位ランクの相対的位置>が、当人が困難を定義するやり方に影響を与える、というものだ。達成ランクが帰属ランクよりも下の人は、自分の状況を個人的失敗の1つと見なしやすい。低い地位で一貫した者とは異なり、彼は自分の不成功を帰属上のハンディキャップで正当化できない。それゆえ彼の困難は、人格的欠陥の感覚や自己非難を刺激する傾向があり、かくして症状化(symptomization)のような内部懲罰的反応の起こりやすさを高める。
他方で、達成ランクが帰属ランクを上回っている一貫しない者は、低い人種ー民族的地位のハンディキャップにもかかわらずポジションを勝ち取った(ないし維持した)のであるから、成功として評価されるし、自らも評価する。もし彼が葛藤する地位期待のせいでストレスを経験するなら、自分自身を責めるよりは、自分の位置が他人の不当な行為に由来するものと見なしやすい。幾人かにあっては、この外部懲罰的傾向が政治的表現を見出し、当人をして社会変動を選好するように仕向けるだろう」p.477.
「夫の職業的地位と彼の妻の学歴および人種ー民族的地位の間の不一致(discrepancy)は、3つの地位次元上の反応者自身のランクの非一貫性とちょうど同じくらい、心理学的に阻害的になり得る。
第2に、性のコントロールは、職業と学歴の不一致に対する男女の反応の著しい違いを明らかにした。表5が示すように、男にとっては、高い職業ランクと低い学歴ランクの間の非一貫性の増加は発症率の鋭い増加と結びつくが、逆のパターンにそのような効果はない。<女にとっては、まさに逆が真なり>——女の学歴が夫の職業より上である時には、これら2つのランクが一貫している時よりもはるかに多く、高い症状レベルを報告しやすい。だが、彼女の夫の職業ランクが彼女自身の学歴レベルよりも上である時には、発症率の増加は見られない。…
…夫が高い地位の仕事を持つ低い学歴地位の女は、自らの状況を成功の1つと定義する傾向があるのかもしれない——彼女は『上昇婚した(married up)』。かくして彼女は、自分の心理学的ストレスを内部懲罰的な症状化反応へと翻訳しなさそうだ。だが『下降婚した(married beneath herself)』学歴の良い女は、地位剥奪と自己非難の感覚を受け継ぐ羽目になりそうで、かくして症状を経験しそうなのだ」pp.478-9.
「その他の可能な反応様式の中で、特に地位の様々なパターンとの関係で検証すれば興味深いかもしれない2つのものは、ある人種ー民族グループへの偏見の発達と、多くの同じように一貫しない人たちによる、共通の地位の不一致に適合したサブカルチャーの発達である」p.479.
「人々が(自分自身および他人の)格差のある(disparate)地位ランクを均して、基礎的な『平均地位』の連続体の上の曖昧でないランクに到達し、しかるのちにそれが行動を導く、ということはない。もし、このようなやり方で地位の非一貫性を心理学的になしですませるのであれば、それは当人にとって阻害的なものにはならないはずだ。[実際には]地位の非一貫性が阻害的であるという事実は、職業・学歴・人種ー民族的出自が米国社会において、別々の区別された地位として経験されていることを示唆している」p.480.