勝手に書いた 真田←幸村が好きなので 

君はロックなんて聴かないし、今時のポップスだって聴かない。歌謡曲や演歌を聴くわけでもない。なのに、俺の話だけは聴いてくれる。
紙をめくる音、乾いた空調の音、ときおり貸出カウンターから聞こえてくる電子音、すべて耳にも入らないような顔をして、俺の話には耳を傾けるのだ。
「……なに難しい顔してんの」
「カタカナが多すぎてわからん。どう読めばいいかわからん」
六色の虹があしらわれた、中高生向けのガイドブックを手に、えらく真面目な顔をした真田が言った。きっと今日この日まで彼の世界には「見えなかった」もので、彼にとっては幽霊のようなものだろう。彼はそんな非科学的なものは信じないたちだと、幸村だって知っている。
ただその『幽霊』が、急に見えるようになってしまった。
「どこがわかんない?」
「LGBTはわかる……」
「わかるの?」
「なに言ってるんだ、保健のテストに出ただろう」
ほら、そーゆーんだと思った。知ってたよ。彼にとっては知識でしかなかった。だから「知らねばならない」。突然目の前に現れた、理解する必要がある、ただそれだけなのだ。
「幸村、顔が強張っている。どうした」
「……どうもこうもしないよ」
君はまた別の『幽霊』に出会っても、話を聴いてあげるんだろうか。俺の話だけを聴いていて欲しいのに、俺を知ってもらうためには、彼に『幽霊』とはなんぞやと考えさせる必要があった。
「じゃあひとつずつ、説明したげる」
「うむ」
そんな『幽霊』の話だって、君は聴いてくれる。おしゃべりな幽霊になろうとしたはずが、唇が急に動かなくなった。今ここから立ち上がって走り出したら、真田は追いかけてくれるだろうか。来るんだろうな、息せき切らせて、階段を一段飛ばしで駆け上がって、最後は俺の腕を掴んで言うのだろう、たった一言「どうした」、と。
どうもしない、ただ『普通』に生きてるだけなんだから。
「真田は俺のこと好き?」
「ああ」
「その『好き』の種類の話なんだけど……」
幸村は身を乗り出し、真田の手元を覗き込む。ちょうど『ゲイ』という言葉を見つけて、すっとそれを指さした。ほら、やっぱり。俺の話は聴くんでしょ、お前は。真田の目線が幸村の爪先を追いかけた。
「俺と君の『好き』は違うんだぞ」。そう説明できたら、手っ取り早いのに。強張っていたらしい顔を無理矢理緩めると、真田がそれこそ幽霊を見たような顔で、幸村を見つめていた。

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勝手に書いた 真田←幸村が好きなので 

胸が詰まりました………😭😭😭カタカナが多くて分からん問題、切実だと思ってます。話を聞いてくれる真田の生真面目さと幸村の話しだそうとして詰まる感じがありありと伝わってきて……!良かったです……!

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