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読書備忘録『九夜』 

*水声社(2020)
*ベルナルド・カルヴァーリョ(著)
*宮入亮(訳)
ヴァルガス独裁政権下のブラジルに研究調査のため派遣されたアメリカの人類学者ブエル・クエインは、調査中に部族の村で奇妙な自殺を遂げた。二〇〇〇年以降の世界で文筆業を営んでいる主人公は、クエインの自殺に興味を抱いて独自に調査を始める。ところが調査開始後も自殺の理由が明らかになるどころか、ますます深い闇に溶けていくばかりであった。人類学者変死の謎に迫るというミステリアスな体裁に、幻想文学の不可思議な趣を加えたブラジル人作家カルヴァーリョの意欲作である。本作品にメタフィクショナルな幻想味を持たせている要因には、この人類学者を筆頭にレヴィ=ストロースなどの実在人物が複数登場する点と、語り手が作者自身を思わせる点にある。主人公はクエイン自殺の真相を探るため部族の村を訪れ、当時調査団を受け入れていたエロイーザ・アルベルト・トーレスの情報を集め、自殺直前のクエインが書き残した書簡を読むものの、求めている回答は得られない。若い人類学者は何故自殺を選んだのか。物語は霧に包まれたままクエインの足跡に誘い込まれていく。

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