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読書備忘録『夜間飛行』 

*光文社古典新訳文庫(2010)
*アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ(著)
*二木麻里(訳)
陸軍飛行連隊の操縦士を務めた後、民間航空で活動するも偵察中に撃墜されて地中海に散ったサン=テグジュペリ。パイロットにして小説家である彼は寡作ではあるものの、実体験を素材とする高精度な作品群はリアリズム文学の至宝として世界的に評価されている。航空郵便の黎明期を舞台に夜間飛行という危険な事業の全貌を物語る『夜間飛行』の現実感は、著者の操縦士経験がなければ表現できなかったと思う。航空会社の支配人リヴィエールの強固な姿勢と、暴風雨に襲われるパタゴニア便の操縦士ファビアンの悪戦苦闘。物語の軸である二人は事業の失敗と眼前の危険という異なる脅威を相手に奮戦している。暗黒の夜空で、嵐に翻弄されながら操縦桿を握り続ける状況は呼吸が苦しくなるほどの緊張感に満ちている。その状況でくだすリヴィエールの冷徹な判断は倫理には反するかも知れない。しかし、彼も失敗を許さない世論に背水の陣で挑んでいるのだ。ここでは善悪を決めて断罪するより、二〇世紀前期の航空業に求められたヒロイズムの功罪に注目したい。

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