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読書備忘録『ガラスの国境』 

*水声社(2015)
*カルロス・フエンテス(著)
*寺尾隆吉(訳)
「時間の年代」という枠組みの中で、母国メキシコ独自の文化を実験的技法で築きあげてきたフエンテス。その物語の面白さと手法の巧みさは同世代のあいだでも突出していた。ラテンアメリカに含まれても中南米には含まれない。言語と地理のどちらを優先するかで立ち位置が変わるという複雑な事情を抱えるメキシコは国境を隔てたアメリカとは穏やかならぬ歴史を刻んできた。その国境を象徴的に物語化した『ガラスの国境』ではメキシコの情勢が濃密に語られる。原書初版に「九つの物語で書かれた小説」と付されていたように、本作品では九編の短編小説が集合して一編の長編小説を形成する手法が取られている。その中心には裕福な権力者レオナルド・バロソがいる。最初の物語「首都の娘」で主役を務めるほかは脇役として顔を見せており、奨学金の送り主や工場の社主として、または飛行機で偶然一緒になる乗客として登場する。レオナルドに接する各物語の主役は、総じて不遇な、抑圧下にある人ばかりで、そのほとんどは隣国アメリカとの摩擦の犠牲者といえる。

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