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読書備忘録『彼女とあの娘と女友達と俺と 海辺の彼女編』 

*インゲン書房(2020)
*松代守弘(著)
noteで連載している松代守広氏の連作短編小説集『彼女とあの娘と女友達と俺と』より、海辺の彼女と呼ばれる美しい人妻とのエピソードを収録。このシリーズは自由気ままに複数の女と交わる中年男「俺」の日常をゆったりと綴る小説で、現代社会における生活模様を撮影するように残していく。いつもカメラバッグを担いで出かける主人公は海辺の町で出会った人妻と逢瀬をかさねる。あるときはサザエの抜き方に苦戦し、あるときは共食い看板を掲げる店で鍋を突き、あるときは球場で消化試合を見ながら弁当を平らげる。その中で二人は濃厚な性交渉に耽るのであった。九つの物語は、確かに男女の不倫を素材とするものだ。けれども彼らの関係は軽快なリズムを刻んでおり、物語全体には仄かな哀愁とともに安らかな時間が流れている。ソーシャルメディア、娯楽、風習、人間関係といった周囲の事物を浮きあがらせる表現法が特徴で、社会風景の記録を垣間見る気持ちなってくる。最初に述べた「生活模様を撮影するように」という感想は、そうした印象から引き起こされたものだ。

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