フォロー

読書備忘録『旅路の果て』 

*白水Uブックス(1984)
*ジョン・バース(著)
*志村正雄(訳)
ポストモダン文学の定義を決めるのは難しい。近代主義からの脱却を目指す思想運動を基礎に、不条理劇を演じることもあるし、社会問題に迫ることもある。強いて小説技法に注目すると、思想も文化も言語も文学的実践の装置に換えることで、物語のパッチワークをおこなう節がある。開拓者の一人であるジョン・バースは第二作目『旅路の果て』で、再生復帰院という施設で治療を受けている精神疾患者ジェイコブ・ホーナーに致命的な失態を演じさせることにより、合理主義的な生き方の失敗例を描きだしている。自我が欠落しているため頻繁に空虚に陥るジェイコブ。彼は担当医師が提唱する「神話療法」を実践し、他者の自我(仮面)を借用するという方法で自己表現の道を模索する。しかし英語の規範文法教師を務めるものの、不適切な仮面ばかり付けるせいでたびたび悶着を起こすのであった。やがて教員仲間のジョーゼフと知り合い、彼の妻レニーの手ほどきで乗馬の練習を始めるジェイコブはみずから悲劇の火蓋を切ることになる。その先に待ち構えているのはやはり空虚である。

ログインして会話に参加
Fedibird

様々な目的に使える、日本の汎用マストドンサーバーです。安定した利用環境と、多数の独自機能を提供しています。