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読書備忘録『丁庄の夢』 

*河出書房新社(2020)
*閻連科(著)
*谷川毅(訳)
この物語は毒殺された少年「丁小強」の独白である。河南省東部の村「丁庄」は、脱貧致富を目指す中国政府による売血政策に乗じ、結果的に多数のエイズ感染者を生むことに。少年の魂は売血運動に加担した祖父と父、売血したために感染した叔父の苦悩と混乱の日々を語る。エイズ蔓延が原因で丁家と村民は一触即発の状態だった。しかし、父は売血を推し進めながらも悠然とし、罪の意識を抱える祖父とは対立を深める。それから祖父は患者を学校に隔離してその終活を見守り始めることになるが、皮肉にもこの移住は幾度にもわたり騒動の引き金を引いてしまう。死を間近に控えても人間とは欲に駆られる生きもので、次々語られる患者のエピソードは権威や見栄に対する憧憬で彩られている。そこには生々しい人間臭さが立ち込めていて、愚かしく悲しい愛憎劇を何度も何度も目撃することになる。けれども村民が滑稽にも映る愛憎劇を演じる背景には、豊かな日常を求めざるを得ず、豊かさを求める故に破滅に至る社会の構造が控えており、丁家も村民も、誰もが被害者である事実を物語っているのだ。

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