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読書備忘録『対岸』 

*水声社(2014)
*フリオ・コルタサル(著)
*寺尾隆吉(訳)
短編小説の名手フリオ・コルタサルの初期短編集。収録作品はいずれも地方教員時代に書きあげたもので、コルタサルの奇抜な発想と、幻想的にして不気味な表現の原点に触れることができる。原点とはいっても各短編のインパクトは強く、独特の鋭利な語り口はすでに完成の域に達している。この時期のコルタサルは退屈な田舎町でフラストレーションをためるばかりか、フアン・ペロン政権下におけるナショナリズムの勃興も影響して、友人に死を仄めかすほど精神的に追い詰められていたようだ。この極限状態で生みだしたものが『対岸』だった。なお『対岸』は第一部「剽窃と翻訳」、第二部「ガブリエル・メドラーノの物語」、第三部「天文学序説」で構成されている。第一部・第二部では吸血鬼や魔女といった亜人、あるいは突発的な手の巨大化や幽体離脱といった悪夢を模写したような怪奇幻想譚が主流であり、第三部では趣が変わって、異星人との交流や会社による星の清掃などSF寄りの奇抜な物語が続く。その筆致は自由気ままであり、コルタサルの入口としても親しめるのではないだろうか。

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