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読書備忘録『金閣寺』 

*新潮文庫()
*三島由紀夫(著)
金閣寺こと鹿苑寺放火事件を題材とした三島由紀夫文学の最高峰にして、日本文学史に名を連ねる不朽の名作。放火犯は同寺で学問に励んでいた学僧。幼少より吃音症に悩まされていた彼は、徒弟として鹿苑寺に預けられた後も苦悶の日々を送った。師匠に対する不信感は募り、母親からの重圧は強まり、理解者である友人を失う。何よりも苦悩を引き起こしたのは金閣寺の美しさだった。敗戦後も美の象徴であり続ける金閣寺は、憂愁に駆られる青年を魅了するとともに、彼を無力な存在に貶める呪縛として君臨した。故に学僧は現状からの脱却を試みるたび金閣寺の幻影によって挫かれてしまい、入り乱れる愛憎の念に苦しまされる。この愛憎が放火という呪縛の根源を葬る道を選ばせる。『金閣寺』は放火に至る過程を、放火犯である学僧が語る告白の物語である。その複雑怪奇な心理の描き方は見事で、三島由紀夫の驚異的な才知に触れることができる。いうまでもなく金閣寺の焼失も、放火犯の正体も歴史上の事実なので結末は自明である。しかし結末までの道程に意義を与えた『金閣寺』においては学僧の行動理念こそ重要なのだ。

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