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読書備忘録『カンガルー・ノート』 

*新潮文庫(1995)
*安部公房(著)
文房具会社の提案箱に投函した「カンガルー・ノート」が入選するも、翌朝脛から無数の「かいわれ大根」が生えてきたので皮膚泌尿器科に駆け込むと、麻酔で眠らされて生命維持装置付きのベッドに固定され、医師の指示で硫黄温泉に向かって旅立つ。ベッドは世界に知られるアトラス社製。自動操縦式の水陸両用で、建造物に変形したり、動物のように意思疎通することもできる優れもの。この万能ベッドを足代わりに「かいわれ大根」の生えた男は、神出鬼没のトンボ眼鏡の看護師、賽の河原で仕事に励む小鬼、死んだ母親、共同病室の縄文人たちと交流していく。この爽快感を覚えるほどのぶっ飛びぶり。安部公房の小説はあらすじの時点で突出している。その奇想を極めた小説作品は世界的に高く評価されており、世紀をまたいでも異彩を放ち続けている。なお、安部公房は次回作執筆中に病没したため『カンガルー・ノート』は完成品としては遺作。作中では死を連想させる現象・事象が滑稽に表現されているが、作者が発表後間もなく病に倒れたことを意識すると、陽気に描かれる死のイメージがはかなげに映る。

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