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読書備忘録『襲撃』 

*水声社(2016)
*レイナルド・アレナス(著)
*山辺弦(訳)
ラテンアメリカ文学に独裁者は付きもの。キューバ人作家レイナルド・アレナスのライフワーク「ペンタゴニア」五部作の最後を飾る『襲撃』では、超厳帥と呼ばれる存在がおさめる独裁国家を舞台に、徹底された監視社会が表現されている。国民は人間としての尊厳を奪われて、鉤爪を持った「けだもの」として強制労働に駆りだされるばかりか、発言も行動も、記憶までも許されていない。違反者を密告する取締員である「俺」の視点で描きだされる抑圧の光景は凄まじい。けれども「俺」に出世欲はなく、あるものは母親に対する憎悪の念だけである。嘲り、高笑いとともに消失した母親の抹殺を行動理念とする「俺」は罵詈雑言を吐き散らし、破壊の衝動に駆られるまま粛清の嵐を巻き起こす。独裁者の影響下にある監視社会と取締員の殺意。渦巻く憎しみはディストピアをいっそう陰惨に染めていく。なお、先述の通り『襲撃』は「ペンタゴニア」シリーズの最終作ではあるが、レイナルド・アレナス曰く各作品は独立しているため順番通りに読むことは重要ではないとのこと。

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