「戦死讃美の極地は、大戦での敗色が濃くなった昭和十九年七月に刊行された勅語御下賜記念事業部編『学徒出陣記念 日本主義死生観-附 靖国の哲学』(人生道場)でしょう。「学徒の初陣を祝ふ」という内閣総理大臣(陸軍大臣・軍需大臣)の東條英機首相の文を巻頭にかかげたこの本には、仏教の諸宗や神道諸派の管長たちが檄文を寄せているのですが、「死生観」という題名が示すように、いずれも戦死の心構えを説いています。
大学生を出征させるのですから、「大学で学んだ知識と見識を活用し、工夫をこらして戦って勝ち抜け」などと激励した文があっても良さそうなものですが、そうした方向のものは見当たりません。いずれも自宗・自派の教義をねじまげて戦死を意義づけし、恐れずに死ぬよう説いたものばかりです。
そのような時勢順応の文章を書いていることからも推察されるように、この管長たちは、戦後は一転して民主主義を説き、平和を論じるようになりました」