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【ほぼ百字小説】(4766) いろんなものを引き連れて歩いている。勝手についてくるのだ。最初は小さなものたちが。続いて、それより大きなものたちが。そうやってだんだん大きくなって、彼方には見上げるほどのものが。前を向くと海の匂いが。

【ほぼ百字小説】(4760) あの頃からずっと、そして今も計算中なのだ。こんなに長くかかるのは、答えを出すことが目的ではなく計算を続けることが目的だから。計算中である限り、清算はしなくてもいい。そのようにしてこの世界は続いている。

【ほぼ百字小説】(4759) 妻と娘を育てている。朝夕に水をやると半年ほどで自立するが、もうその時分にはひとりに慣れて、ひとりでもいいかな、などと思ったり。それを感じて出て行ってしまうのかも。それでまた、いちから育てることになる。

【ほぼ百字小説】(4756) いつのまにか外出に日傘を持たなくなっていて、それでようやく秋が来たことに気がついて、あんなに毎日持っていたのに、意識もせずに持たなくなったりするものなのだな、と舞台袖で持ち道具の赤い傘を持ったときに。

【ほぼ百字小説】(4755) 昔住んでいたあたりにできた新しい劇場で公演をしているその空き時間、昔毎日のように行っていた喫茶店でぼんやりしていると、これはあの頃の自分が見ている夢なのかも、とか、そういう芝居の一場面なのでは、とか。

【ほぼ百字小説】(4753) ビルの壁にぼんやり四角く並ぶのは窓の幽霊。壁に塗り込められた窓があんなふうにいくつもいくつも。たまに窓の中に人影が見えるが、同じものの使い回しっぽいから、そこはどうでもよくて、重要なのは窓なのだろう。

【ほぼ百字小説】(4752) 大阪の命は空に輝いて、みんなでつながれ命の輪。敵基地も攻撃できるぞこの力。さあ立ち上がれ、市民たち。その身を切って、すべてを賭けるときがきた。カジノで資産も倍増だ。血も肉も、ミャクミャク様に捧げよう。

【ほぼ百字小説】(4748) 甲羅の中のことは、自らの甲羅に入れる者にしかわからない。甲羅に入って、もっと入り、もうこれ以上は入れないところからさらに入る。そんなふうに自らを裏返すように甲羅の向こう側へ旅立っていく亀もいるという。

【ほぼ百字小説】(4746) 深い海の底にも道がある。普段は暗くて見えないが、月の明るいこんな夜には、ライトに照らされた花道のように泥の上にまっすぐの道が現れる。何かがやってくる道か何かが去っていく道か。それはまもなくわかるはず。

【ほぼ百字小説】(4745) 呪いは、象くらいの体積と速度で進行する黒体で、主として国道を移動する。通過してしまえばとりあえずは安心で、その通過を妨げないよう皆、安全運転を心がけるから、呪いが訪れるとその土地の交通事故は激減する。

【ほぼ百字小説】(4743) 黒猫の中の黒猫を決める集会が、今年も開かれる。選りすぐりの黒猫ばかりが一堂に会するその集まりに参加できる、というだけでも黒猫として大したもので、黒一色のその会場は、まるで千の目を持つ夜のようだという。

【ほぼ百字小説】(4742) ひとつの役を四人が日替わりで演じる。そんな芝居に出演しているから、昨日は自分がやっていた役を今日は別の誰かがやっているんだな、などと思いつつ家でぼんやり過ごしていて、あの世ってこんな感じゃなかろうか。

【ほぼ百字小説】(4733) 頭の中で同じ時間と空間を何度も何度も繰り返すことでやっと見えてくるものがあって、それはたぶん現実も同じで、そうやってやっと見えてきたものを現実に何度も何度も繰り返せるこれは、なんと奇妙で贅沢な喜びか。

【ほぼ百字小説】(4727) 角がとれて丸くなっていたり、まんべんなく傷が入って表面がくすんだようになっていたり。良くも悪くもそうなっていて、それでどうだということでもない。そうやって少しずつ少しずつ小さくなっていって、無くなる。

【ほぼ百字小説】(4726) 浜に打ち上げられた漂着物が並べられている。そういう意味では、ここもひとつの浜なのだろう。そして、そんな浜を散歩しているつもりでいる我々もまた、そんな漂着物のひとつなのだ、と眺められてようやく気がつく。

【ほぼ百字小説】(4725) 足もとを虫がゆっくりゆっくり飛んでいく。それを追いかけて蛙が跳ねている。その後ろを蛇が這っていき、それを狙って大きな鳥が嘴を開いている。そこからどう続くのかは気になるが、そろそろ逃げたほうがよさそう。

【ほぼ百字小説】(4724) 子供の頃に月だと思っていたあれは本当の月ではなく狸が化けた月なのだ、と知って、それならアポロの月着陸は関係ないのでは、と思うのだが、たぶんそれは狸側の問題ではなく、観測するこちら側の問題なのだろうな。

【ほぼ百字小説】(4723) 歩くと月がついてくるのがおもしろくて、子供の頃はよくいっしょに歩いた。家の中までついてきたことも。明かりをつけるとどこかへ行ってしまうから、そんな夜は月明かりで過ごした。アポロが月に降りる以前のこと。

【ほぼ百字小説】(4717) 反対しても無駄、嫌ならやめればいい。それが首相からのメッセージで、それじゃあもうやめるか、やめようやめよう、やーめた、とぞろぞろ人間をやめてしまったから、残った人間は全員食い殺されて、人間も終わった。

【ほぼ百字小説】(4713) 奇妙なほど急に涼しくなった朝、そのどんよりした空の下、昔暮らした坂の街を通り過ぎて、海に架かる長い橋を渡り、最初に創られた島を走り抜けて、渦の近くで待ち合わせ。目印は、木星行きの旅の映画のTシャツで。
 

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