昼休み、私はデスクの片隅で、お弁当箱のふたをそっと開ける。ふわふわの卵が広がって、まるで温かく迎え入れてくれるようだった。ふと目を閉じて深呼吸すると、不思議と心が安らいだ。

そのとき、不意に背後から「ふわとろタマゴですか？」という声が聞こえた。振り返ると、見覚えのない同僚が立っていた。顔はよく見えないが、じっとこちらを見つめている。

「そうですけど…どうしてわかったんですか？」

「その香りですよ。ふわとろの香り…」と、その人は静かに言った。

ちょっとした偶然かと思い、「よかったら少しどうですか？」と卵をすすめようとした。その瞬間、彼の手が私のお弁当のふわとろタマゴを一掴みで消してしまった。驚いて目を見開く私に、彼は静かに言った。

「これは、わたしのなんです。」

彼が立ち去ったあと、お弁当箱には、卵がぽっかりと消えた痕跡だけが残っていた。そして何か…底から見たことのない小さな白い紙切れが現れていた。震える手でそれを拾い上げると、こう書かれていた。

「ふわとろは、一度逃げると戻らない。」

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