小倉孝保『中世ラテン語の辞書を編む』読み終わった。抜群におもしろそうなテーマなのに、読み始めるとあまりにも読みにくいしつまらない。何故だろうとずっと考えながら読み続けて、ふと巻末を見て理解した。当初はプレジデント社から発行されたものを文庫化したものだったのだ。あまりにも表面的過ぎる考察、人に聞いて回るだけで自らの思索が無い点、100年を超える期間をかけて遂に成し得た文化的な偉業や関係者に対する敬意の無さなど、すべてビジネス教養書と思えば合点がいく。文化的価値ではなく経済的な成立経緯を記すことが目的であり、徹底的にHOWだけを記述すること。複数の関係者に全体で経費はいくらかかったのかと訊ね、「経済的観点でこのプロジェクトを語ることに意味はないと思う」とまで言われる情けなさ。これは日本で辞書編纂が国家事業になり得ない現状を述べた第九章「日本社会と辞書」が逆説的に本書の中でいちばんおもしろいことと根が同じなのだと思う。
本書の内容やスタイルそのものにケチをつけるつもりはないが、角川ソフィア文庫で出すことについてはひとこと申し上げたい。自らブランド価値を毀損してどうするのかと。