「ただ、地声を出していないという点では、女性がとらわれているものと同じです。
教えている学生を見ていても、体格からして低く深い声が出るはずなのに、あえて弱々しい優しい声を出している男子がいる。
自分の本来の声を抑圧するのは、個性を殺すのと同じことで、不自然で不幸なことなんです」
――その人本来の声を「オーセンティック・ボイス」と呼んでいますね。
「オーセンティックは『真実の』とか『本物の』という意味ですが、人は誰しも唯一無二の、宝のような声を持っている。
人間の声に含まれる膨大な情報は、その人の身体の要素と人生すべてを含む、いわば生きている証しです。
でも多くの人が、社会意識に合わせて、我知らずそれを押し殺してしまっています」
「オーセンティック・ボイスはその人の個性を、心身がもっとも良い状態で表現する声です。
声の高さや色合いは、人それぞれ違って当たり前。
地声が高い人は無理に低い声を出す必要はないし、その逆もしかり。
誰もが本来の自分の声を出せる――。
それが多様性を認めるということに他なりません」(石川智也)