#Fediverseワンドロワンライ (お題:秋)2
「……じゃあ、尻尾だけなら」
僕が言うと大家さんはうっとりと目を細めながら尻尾をそっとなでなでする。
「タヌキちゃん」
うわごとの様に言うけれど、ぼくの名は大貫だ。
「まあ、冬支度も大変ですしね」
大家さんはそんなことを言いながらももう尻尾しか見ていない。
この人が動物好きの人間嫌いだという事はここに入居した時からよく知っている。
大家さんはひとしきり僕の事を撫でた後「今回だけは家賃まってやるから」と言った。
こういう事は今回が初めてではない。
耳と尻尾を戻すとまた冷たい視線をこちらによこす大家さんを見て、ああ残念な人だなあと思う。
でも、こんな残念な人だからこそちゃんとしないといけないとも思うのだ。
「あと2週間待ってください。
お給料が出るはずなので!」
「はいはい」
人の形をしている時の大家さんは基本塩対応だ。
だけど、待ってくれるらしく、やっぱりいい人だなあと思った。