映画『恐怖の足跡 ビギニング』(1955) ※弱ネタバレ、少し残酷 

物語終盤で何が起こるかまで触れているけど、ストーリー自体が虚実入り混じったものなので見る前に読んでもさほど支障はないと思う(苦情は受け付けません)。

とてもよかった。資料ではなく生きた映画として、面白く怖く見た。
トーキーだけどセリフはごく少なく、演出も演技もサイレント的だった。Wikipediaによるとハリウッドでは1930年代にはトーキーが相当に普及していたようなので、あえてそうしたものと思われるけどよく分からない。
セリフで語られない部分は、頻繁に差しはさまれるナレーションが補完していた。そのナレーションが、主人公を憐れみつつあざ笑うかのような調子なのが印象的だった。

現実(のように見える場面)への幻想の介入のさせ方がとてもうまかったと思う。
現実?に転落した死体を、顔の見えない数体の人間のような何かが微動だにせず取り囲んでいるところ。主人公を追う刑事の顔が、かつて自分が殺した父親そのままであるところ。クラブで楽しく過ごしていたはずの客たちが突然狂ったように笑いだしながらある方向を一斉に指さすところ。
見ていても現実と幻想の境界がしばしば分からなくなり、主人公と同じように戸惑い恐怖した。

クライマックスで、恐怖におののく主人公の様子がそれまでの映像とともにカットアップされるところも、今から見ればベタではあるけど現代につながる映像センスを感じた。

娯楽映画的な作法と『アンダルシアの犬』なんかを想起するようなドライでシュールな感覚とが入り混じったような映画だけど、どっちつかずにならずまとまりのある作品になっていてすごいと思った。

残酷描写について。死んだはずの男とそれを抱える警官が、手首から下が切断された男の腕を大笑いしながら掲げる場面(ここほんと怖かった)では、不鮮明ながら切断面と千切れた血管?が映っていた。また切断された手首はほかのシーンで大きく映されていた。
#映画 #ホラー映画 #ミステリー映画

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