映画『マジック』(1978) ※ネタバレ
物語の核心・結末についての言及あり。見たのは数か月前なので細かいところが間違ってるかもしれない。
ジャンル分けするならサイコスリラーになるんだろう。でも腹話術の人形という実在のモノを通して主人公の精神のありようや変化を描いた一種のドラマとして見ることができるし、そう見るべき作品のような気がした。サイコドラマという言葉があるか分からないけどそんな感じ。
スリラーではなくドラマだと感じたのは、単純にクライマックスで主人公がかつての恋人を襲う前に(襲いかけてはいたけど最後の最後で)思いとどまったから。どう見ても最後かつ最高の標的なのに、襲って失敗するのではなく「そもそも襲わずに立ち去る」という選択をするのは、いわゆるジャンル映画に属する典型的なスリラーではまずあり得ないだろう。だって盛り上がらないから。
それでも映画として十分に成立していたように思えるのは、クライマックスに至るまでの主人公の内的な葛藤とその発露としての異常な行動、背景となる主人公と元恋人の関係、元恋人の現況などの描き方が丁寧で厚みがあったからだと思う。この映画には原作があり、作者が脚本も担当しているようだけど、視聴後にそれを知って納得するような内容だった。
脚本の比重が特に大きい映画ではよくあることだと思うけど、映像的なインパクトはあまりない。アンソニー・ホプキンスの芝居には引き込まれるものがあったし、主人公と人形が意見を戦わせる(=主人公が葛藤する)場面や殺害の描写にもきちんと緊迫感があったけど、映像はあくまで物語を肉付けするための手段と位置付けているような印象をもった。
自分の好みとしては脚本が破綻してようがなんだろうが鮮烈な映像で押し切るようなアンバランスさに惹かれるけど、完成度の高い脚本をじっくり味わうのもたまにはいいなと思った。見終わってすぐまた最初から見直すぐらいには、読み解きたくなる繊細さと重厚さのある映画だった。
#映画 #スリラー映画
"脚本が破綻してようがなんだろうが鮮烈な映像で押し切るようなアンバランスさ"
書いたとき頭に浮かんでたのはダリオ・アルジェントだった