映画『喜劇 一発勝負』(1967) 

「馬鹿」シリーズに続いてハナ肇を主演にすえたコメディシリーズ。型破りな主人公が周囲を巻き込んで騒ぎを起こすという大筋は「馬鹿」シリーズから継承されている。
ただし「馬鹿」1作目と3作目では主人公を取り巻く地域社会の保守性や身勝手さなどが批判的に描かれていたのに対し、本作で起こる騒動は基本的に主人公の傍若無人さと山師的な性格に起因するもので、周囲の人々はそれに振り回される存在として描かれている。「馬鹿」でいえば2作目がこれに近い内容だった。

のちの『男はつらいよ』シリーズも、主人公のキャラクターこそ異なるものの、構造としてはこれに近いと思う。山田洋次のコメディの作風自体が、主人公への共感を誘う内容から、主人公に振り回される周囲の人間に共感させる内容へと変化しているようにも見える。

我々観衆の多くが、破天荒な主人公よりも周囲の「普通の人」に近い存在であることを考えると、この変化は理にかなっていると思う。主人公を取り巻く社会の側を糾弾するような内容にすると、自分を批判されているような気になる人も多いだろう。コメディとしては、無茶なことをして相応の報いを受ける主人公を「自業自得だよ」と笑っていられる内容の方が無難ではあると思う。その分、『馬鹿まるだし』のように心に突き刺さってくるような映画ではなくなっているけど。

「馬鹿」シリーズでは社会批判に向くことも多かったエネルギーを笑いに全振りしたような映画なので、当然のように楽しい。ダレ場がない。ハナ肇は今作でも活力に満ちていて、突拍子もない出来事を次から次へと起こしながら突っ走る主人公にぴったりだった。
谷啓もすごくよかった。キャリア終盤の姿しか知らなかったけど、初めて本領に触れた気分。

あと、山田洋次の映画で頻繁に行われるイメージのあるコケ芸が本作では多くみられた(「馬鹿」シリーズにもあったかは覚えてない)。後年の山田作品で、登場人物がやたらとコケたり頭や爪先をぶつけたりするのを見ても正直面白いと思ったことがなかったけど、あれはこの映画のように高密度のドタバタの中に差しはさまれてこそ効果を発揮するのかもしれない。

基本的には何も考えずに笑える映画なのだけど、結末でそれが一気にひっくり返る。ブラックというかシニカルというか、とにかく異様な終わり方だ。ある意味で親子の絆の強さ・断ち切れなさを表しているし、「親不孝はするものじゃない」という教訓を見出すこともできなくはない。でも異様だ。監督があのシーンに込めた意図は定かではないけど、頭からお尻までただ気楽に笑えるだけの映画を作ろうとしていたわけではないのは確かだ。

音楽のテイストは「馬鹿」シリーズから少し変わっていた。あちらではカートゥーンジャズっぽい曲が印象に残っているけど、こちらは「Batman Theme」のようなサーフ/ホットロッド風の曲が何度か流れていた。また、当時スパイダースに在籍していた井上順と堺正章がカメオ出演している。当時流行していたと思われるロックやGSの要素を盛り込んで、新しい客にアピールしていたんだろうか。分からないけどとりあえず井上順が男前すぎた。
「馬鹿シリーズ」から続いて本シリーズとも深く関わっているクレージーキャッツは、スパイダースにとっては先輩格だろうけど、どういう関係性だったんだろうか。現場で何か話をしたのかな、などと想像しながら見た。

あとは、主人公が徳利から酒を白飯に注いで食べるシーンがあった。飯に酒といえば勝新太郎のブランデー茶漬けが有名(事実なのかは知らない)だけど、あれと関係があるんだろうか。

※敬称略
#映画 #コメディ映画

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