映画『顔』(2000) ※微ネタバレ 

本筋と関係ない1シーンへの具体的な言及あり。また結末に関して具体的には言及しないけど、おおまかな方向性にはふれている。

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一見していつ作られたのか、時代設定がいつなのかよく分からない映画。役者の若さなどからある程度推測することができるけど、それがなかったら自分には見当がつかなかったと思う。実際は上に書いたように2000年公開。時代設定は、福田和子の事件をベースにしてるらしいので80~90年代なのだろう(なお劇中に、福田をモデルにしたと思われる人物が主人公とは別に登場する)。

制作時点より前の時代を再現した映画はどう頑張っても(むしろ頑張れば頑張るほど)再現感が出てしまうものだと思うけど、この映画にはそれをあまり感じなかった。シーンによっては事件の起きた80年代よりも古い映像にすら見える。再現というより、時代というもの自体から切り離されている感じ。そういう雰囲気が、一応実話ベースの生々しい話でありながら不思議な浮遊感を醸しているように思った。
なお阪本順治監督作はほかに見たことがないので、この監督がもともとそういう作風なのか、この映画だけがそのような方針で作られたのかは分からない。

あとはとにかく主演の藤山直美がすごい。ストーリーの進行に従ってキャラクターの内面も外見(「顔」の表情、あとはメイクとか服とかも)もどんどん変わっていくのだけど、それが並の演じ分けじゃないというか。
仮に映画冒頭の状態を内面0,外見0だとすると、「内面が3に進んだけど外見はまだ1」とか、「外見が3まで追いついたことでそれに引きずられて内面がさらに5ぐらいまで進んだ」みたいな相互作用まで見てて感じられるような。監督や俳優が何をどこまで考えているかは分からないし、すべてこちらの妄想かもしれないけど。
でもそれぐらい、見た目や言葉遣い、ちょっとしたしぐさから主人公の内心の移ろいが伝わってくるような演技だった。自分は演技の良しあしなどは分からない人間だけど、これは多分すごいんじゃないかと思う。

最後のシーンもとてもよかった。どうしようもない状況がどうしようもないまま終わるけど、そこに(たとえ刹那的なものだとしても)救いがなくもないような。『カビリアの夜』という映画がとても好きなのだけど、見終わってあれに似た精神状態になれた。ハッピーエンドでもバッドエンドでもない、スウィートでもビターでもない、割り切れないけど妙にポジティブなこういう結末はとても好きだ。

印象に残ったというほどでもないけど気になったシーン。スナックで客がカラオケをする(ちなみに曲は平山三紀(現・みき)の『真夏の出来事』)。他の客は表拍で手拍子を打つけど、店のママは裏拍で打つ。お互いが変えるタイミングを逃したまま手拍子を打ち続ける。
これ客の年齢層が幅広いコンサートとかでたまにあるなあと。意図的な演出なのか気になった。

※敬称略
#映画 #犯罪映画

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