映画『いいかげん馬鹿』(1964) ※弱ネタバレ 

※ストレートの核心部分への具体的な言及はなし。全体的な構成や個別のシーンへの言及はあり。

山田洋次監督、ハナ肇主演の『馬鹿』映画2作目。前作の方が好きだけど、ロックな感じがない分こちらの方が人によっては安心して見られるかもしれない。
前作同様、小さな地域社会(今作は島)の盛衰と主人公との関わりが描かれる。ただ今作では、主人公に(実の親ではないとはいえ)家族と帰る家があり、親密な幼馴染もいるなど、環境はかなり違う。寅さんに近づいてる感じ。
とくに主人公が手提げの鞄を片手に島へ帰り、島民に土産話を聞かせるところや、テキ屋になって口上を披露するところなどは寅さんにそっくりだった。

島の功労者として祭り上げられたかと思えば冷遇されるなど、地域社会に振り回されるところは前作同様にあるけど、今作ではそこまで悲劇的な雰囲気はない。今作の主人公が前作に比べて野心家であり、その野心ゆえに無茶をしがちなのが大きいのだと思う。そのため、ひどい目にあってもある程度は自業自得と感じられるようになっている。

また前作では地域の人々や社会を、愚直な主人公を使い捨てにする残酷な存在のように描いているように思えた(意図をはかりかねる描写がしばしばあったのでこの解釈にもうひとつ自信がないのだけど、自分にはそう感じられた)けど、今作では外地でヘマをやらかしては帰ってくる主人公をなんだかんだで受け入れる存在として、それなりに郷愁を喚起する描き方をしているように思えた。
また思いを寄せる女性に対しても、前作ほどの崇拝ぶりはみられず、恋愛未満の好感情にすぎないように見えた。

全体的に前作のような熱量がない分、良くも悪くも見やすい作品で、より多くの観客に受け入れられそうな作品だと思う。『男はつらいよ』で国民的喜劇監督(喜劇以外もいっぱい撮ってるけど)の地位を確立する素地が着々と作られつつあるように感じた。

印象に残ったシーン。海沿いの丘の上で、男を寝取った女、包丁を振り回して追いすがる女、主人公、島の駐在が走る様子を真横(おそらくは船上)から撮っているところ(サザエさんのEDで一家が並んで歩くのを想像すると分かりやすいかも。あれをさらに引いて撮ってる感じ)。4人とカメラの間を、大漁旗をはためかせた漁船が通っていく。ジャジーなドラムがかっこいい、コミカルで洒脱な曲が流れていた。
ちなみにこの前のシーンでは、追われる女が腕から血を流し、追う女が振り回す包丁にも血が付いていた。コメディにこういう生々しさを注入するところは、後年の山田洋次作品にはあまりないのではと思う。

#映画 #コメディ映画

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ル豆(雲)  

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