熱いのは君のせいだから
いっつも私だけがどきどきしてるし顔を赤くする、と彼女は頬を膨らませるけれど。
彼だって高揚もするし鼓動を高鳴らせたりもする。身体も熱くなる。つまらない男の矜持で、顔や態度に出さないだけで。
そして、空離れの季節を迎えて人肌が恋しくなったのか、無防備にくっついてくるようになった恋人は、ようやくその事に気付いたらしい。
アルウェスの懐に額を懐かせたかと思えば、瞬きをしながら面を上げ。伸ばされた白い手がアルウェスの頬を包む。
ナナリーが驚きを滲ませた声で呟く。
「いつもより温かい。え、熱でもあるの?」
「何でそうなるの。……僕だって、好きな子に急に抱きつかれたら、多少動揺するし照れもするよ」
表情は取り繕えても、体温は統率出来ない。感情の振れ幅に合わせて熱くなるがままだ。
アルウェスも動揺するのね、と少し嬉しそうにナナリーが声を弾ませる。何も知らない、鈍感で愛しい氷の魔女。
アルウェスの感情を揺らすのは、昂ぶらせるのは。炎のように熱く、それでいて制御不可なものへと変えてしまうのは。
彼の心に真の意味で熱を灯せるのは、もうずっと前からたった一人だというのに。
#1T67SS