仕事の依頼でモードゥナに立ち寄った冒険者。依頼人に完了の報告をした後、ふと気が向いてクリスタルタワーに立ち寄る。天を衝き聳え立つ塔はいつもと変わりなくうつくしい。そういえばグ・ラハは離れていてもクリスタルタワーの状態がわかるようだが、一体どのようにして感知しているのだろう。ふとそんなことを思った。
空へと伸びる水晶の壁にそっと手を這わせる。ひやりとした硬質の感触。
「……ラハ、」
ここにいない人に呼びかけてみる。氏族名を排した名。親密な相手にしか許されないという呼び方を、本人の前で口にしたことはなかった。
当然塔は応えない。なんだか妙に気恥ずかしく、冒険者はすぐに正気に返ってその場を去った。
それから数日後。シャーレアンに作った品を卸すついでに、バルデシオン分館に顔を出した。ちょうど書類の整理をしていたグ・ラハと鉢合わせ、いつも通り挨拶をする。
しかし何故だかグ・ラハは顔を赤らめ、何か言いたげに口をもごつかせた。
「なあ、あんたさ……」
「ん?どうした、グ・ラハ」
「……なんでもない」
何故だかすこし拗ねたように視線が逸らされ、彼の姿がメインホールに消えてゆく。
なにか彼の機嫌を損ねることがあっただろうか。心当たりのない態度に、冒険者は首を傾げるのだった。