もうすぐ89歳になる私の母は数年前まで車それも MT の軽トラックに乗っていた。
見ていて特に危なげな所は無かったので、車の運転をやめるように勧めることはしなかった。
免許証の書換えが迫ってきた時にも、高齢者用の講習を受講し、認知機能等の身体能力の検査も受け、最後には、私を運転手にやとって遠くの免許更新センターまで行き、実技試験を無難にパスして見せた。後は事務手続きをするだけになっていたのだが、「もう運転はやめとくわ」と言って、免許の更新をしなかった。
母が自動車を諦めてくれてほっと安心したかと言うと、微妙なところだ。
もちろん、事故を起したり、人を傷つけたりする前に車を降りてくれたことは非常に有難いと思った。この賢い人が自分の母であることを感謝しなければなるまい。
しかし、同時に、今後は母の運転手として自分の時間を使う必要が増えることを思って、罰当たりな息子はちょっと渋い顔をしたのである。
母は今のところ、柚子で味噌やマーマレードを作ったり、コンニャクを作ったり、家族の食事や弁当を作ったり、テレビを見たり、小説を読んだりして、元気に日々を過ごしている。さすがに、以前に比べて疲れやすくなったように見えるし、乗せて行ってやると言っても遠くには行きたくないと言ったりするけれどね。