追いかけてくる気配を感じるが捕まるほど間抜けではないし姿だって見られてない自信がある。そしてこの状況で喧嘩を続けるほどあの人も馬鹿ではないだろう。いや、どうでもいいんだけどね。
次の日、部室に行こうとすると向こうから三井サンが歩いてくるのが見えた。俺も三井サンも一人で、こういう時は声をかけてこないので目線を合わせにようにしながらすれ違う。しかし今日は「おい。」と声をかけられる。因縁をつけられるのは面倒だなと思ったが俺の返事を待つこともなく「落とし物だ。」と言いながら何かを放り投げてきた。俺は反射的にそれをキャッチする。それは擦り傷と一部へこみが入ったポカリの缶だった。
「な!?」
思わず驚いた声を出してしまった俺に、悪戯が成功したとばかりに軽く笑い声を上げて三井サンはそのままスタスタ歩き去っていった。
叫ぶようにそう言いながら三井サンに抱きついた。
「おお?!ずいぶん素直じゃねーか。」
三井サンも俺の背中に腕を回して抱きしめ返してくる。
汗臭ぇー、うわぁ宮城の匂いだわ、あ、俺も汗臭ぇよな?ま、イイかお互い様だもんな、わははは。
相変わらず思ったことを全部口に出す三井サンに俺も乗っかって、
「恋は盲目ってマジだったんすね。なんなら良い匂いじゃね?って思ってる自分がいる!」
「それな!」
俺たちはぎゅうぎゅうと抱きしめ合いながら大笑いした。
その後、三井サンが買ってきてた苺のショートケーキを、走ってきたせいで箱の中で無惨な姿になっていたそれを、道端で笑いながら半分っこして食べた。
手掴みで行儀悪くケーキを食べる姿が最高に可愛くってエロくって今すぐキスしたいなんて思ってたら三井サンも同じ気持ちだったらしい。
「ほら、誕生日プレゼントにここでちゅーしろい。」
この恋人からのおねだりを、断ることのできるやつがいるだろうか。苺のショートケーキ味のキスの後でちゃんと声に出して言おう。
三井サン、誕生日おめでとう。
反射的に「すみません。」と言ったがこれはわざとぶつかられたか、こんな日に喧嘩売られるなんてなんて運がないのだと思いながらその人物を見る。
「お前、喧嘩売られる才能あるんじゃねーか?」
直に聞くのは久しぶりの、それは紛れもない三井サンの声だった。
「え、は?なんで?」
いきなりのことでうまく言葉の出ない俺を気にすることなく三井サンは、
「お前の恋人の三井が誕生日を祝われにきてやったぜい!」
と、とってもまぶしい笑顔でそう言った。
「バースデーカード、ありがとな。誕生日なんて特になんとも思ってなかったんだけどよぉ、届いたあれ見て自分でもびっくりするくれぇ嬉しくって、もう今すぐ宮城に会いてぇって朝からソワソワしっぱなしだった。お前部活帰りのこの時間くらいにそこの電話ボックスから電話かけてくるのわかってたから練習終わってから大急ぎできたわけよ!」
三井サンの大学の場所からして、練習の後きっとシャワーも浴びずに来たんだろう、ジャージは汗で湿ってるし髪の毛もぺたりと額に張り付いている。汗臭いその姿はほんの数ヶ月前の部活帰りを思い出させて胸がギュッとなった。俺は人目も気にせずに(と言ってもこの時間のこの場所は人通りは少ないんだけど)
「俺も会いたかったよ三井サン!」
結局、三井サンの誕生日に会うなんて約束を取り付けることはできなかった。プレゼントも高校生の懐事情では大したもの買えないから諦めてバースデーカードを送るだけにとどめた。手紙だと少し正直になってしまう俺は、お祝いの言葉と共に会えない寂しさも綴ってしまわないようメッセージも当たり障りのないものにした。
五月二十二日。県大会に向け一層厳しい練習を終えて帰宅する途中で公衆電話に立ち寄った。時計を見る。うん、この時間なら帰宅しているはずだとかけ慣れた番号を押していく。二十回ほど呼び出し音を聞いたところで受話器を置いた。残念、まだ帰宅してないのか。タイミングが合わないのは仕方がない。寝る前にもう一度電話してみようか、でも家からだと家族の手前恋人っぽい会話はできないんだよな、大体約束をしてたわけでもないからもしかしたら大学の友達や堀田さんあたりに誕生日を祝ってもらってるかもしれない。俺はどんどん気持ちが落ち込んでいくのを自覚した。こんなことで寂しくなるのは自分に自信がないからだ。公衆電話から出て俺は俯き加減に歩いていたので前方の人物に気がつくのが遅れて思いっきりぶつかってしまった。
三井サンの誕生日が五月二十二日だと知ったのはその日が過ぎて数ヶ月も経ってからだった。なにせ、その頃はバスケ部襲撃からのまさかの復帰騒動、県大会が始まりと大忙しだった。大体、男同士というのは誕生日だからと言って祝いあったりしない。「お前今日誕生日だからジュース奢ってやるよ」とかせいぜいその程度だ。まぁそれは俺が誕生日に対して複雑な思いを抱いてる所為でもあるし、誕生日が夏休みの真っ只中だからということでもある。
色々あって俺のわだかまってたことは少し解消され、三井サンとはただの先輩後輩から、いわゆるお付き合いする仲になった。ただの男友達ならスルーする誕生日も、恋人となれば大事なイベントだ。プレゼントは何を贈っ
たら良いだろう、あの人の好みは?デートとかしたいよなーなどと悠長に考えてられたのはほんの短い間だった。そう、なにせその頃は県大会が始まっているのだ。新入生も入りキャプテン業も一層忙しくなった。三井サンにしても推薦で入った大学で忙しい毎日を送っている。俺たちは付き合ってるとは言え、たまに電話をするくらいのことしかできていない。
サラサラのロン毛が好きじゃねえ、そう言ったのは三井の言葉を受けての反射的な返しではあったが本心でもあった。思い出の中の"みっちゃん"はさっぱりとした短髪でキラキラしていたからそうじゃなくなってたそれが気に食わなかった。関係がうまく行ってない母親と似ていたことも苛立ちの一つだった。
だからバッサリと切られたその頭を見たとき、恥も外聞もなくバスケットに打ち込んでる姿を見たとき、バスケットを通じて関係が良くなっていったとき、山王戦の途中であの"みっちゃん"が戻ってきたと感じたとき、とても嬉しかった。
だから、この気持ち。
あの髪に指を滑らせて、指の間を通る感触をたしかめたかったとか、後頭部の髪を掴んで顔を上げさせて、鼻血で濡れてる口にかぶりつきたかったとか、その機会が永遠に失われて、残念だとか。
これらはきっと何かの間違いだから。
ぎゅと握った拳の中で粉々に砕いて忘れた。
プロ選手になった三が何度目かの膝故障の結果選手生命たたれて引退になって、旧友たちが何かアクショ起こす前に失踪、そのまま数年経ったある日火事で全焼した家から焼死体が二つ出るけど、片方が死後数年経って白骨化してる状態で、歯形から身元が三ってわかる…みたいな鉄三。
引退することになった三は自分でもこのままだとちょっとやばいなーみたいな自覚ありの時に鉄男と再会して笑いながら「このまま消えたいんだわ」みたいなこと言ったらほんとにそのまま攫ってくれる。暫く一緒に暮らしてたみたいだけど最後には三を殺してその死体を手元に置いたたま暮らす鉄男。
火事が失火なのかどうかは不明のまま、その内もう一つの焼死体の身元が鉄男とわかり過去の三井との交流などからいろんな憶測をよんで暫くワイドショーを賑わすけどそのうち忘れらる。
鉄男「今度こそ俺がこいつを貰っていくわ。お前らがしっかりこいつの手を掴んでねぇのが悪いんだよ」
事件を知った旧友たちは新聞の記事やテレビに出る画質の悪い鉄男の写真からそんなことを言われた気がする。
みたいな死ネタ鉄三ネタが浮かんだけど、自分ハピエン厨なのでここで呟くだけで供養。
両想いだけどはっきり付き合うとかなくって、お互いにそのうち普通に結婚して妻子持ちになるんだろーなーとか考えてるリョ三。
リョ「あんたが自分の子供叱ってたら『お父さんは昔もっと悪いことしてたのにひどいねー』って慰めるわ」
三「俺はお前の子に大人になるまで信じるウソ教えるわ。ギリ信じそうなやつ考えとこ。あ、女の子だったら『アタシ将来みっちゃんと結婚する』って言わせてお前を泣かせてやる」
リョ「俺の娘から離れろロリコン!総入れ歯にすんぞ!?」
リョ三「だははははは」
リョ「で、あんたの奥さんが死んで」
三「俺、奥さんに先立たれるの?」
リョ「子供さんも独立したら俺『そろそろ俺を選ばない?』ってプロポーズしに行くっスよ」
三「おおおっ、策士だな?露骨に寂しがりな俺の隙をつきにくる気だな?どうしよう、俺断る自信ねーな」
リョ「あんたは?」
三「そういうやつなら俺はお前が結婚した後は一切会わねーで、お前の通夜にいきなり現れて」
リョ「俺、妻子残して死ぬの?!」
三「お前の棺の前で大号泣して周りをドン引きさせる」
リョ「俺の死んだ後に波風立たさないでくれる?それ昔の恋人枠じゃん!」
fkmt作品(南赤南)/ジパング(草松)/洋画(コリファリ/🍋🍊) 最近はSD(714)多め
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