ほらまたすぐそういうことする。俺もよくやられてその度に髪が乱れるからやめろと言っても、「悪ぃ悪ぃ。」なんて口先だけで謝って一向にやめない。桑田は「やめてくださいヨォ。」なんて言ってるけど顔は笑ってて本気で嫌がっていないのがわかる。え、まさか俺も実はあんな顔してたりしないよな?ちゃんと嫌な顔してるよな?
そんなことを考えてたら三井サンと目が合った。桑田から手を離しこっちに近付いてくる。あ、見すぎて睨んでいると思われただろうか。俺の前までやってきた三井サンがじっと俺を見下ろす。こういう時もなんか一歩距離が近い。そしていきなり手を伸ばしてきたかと思ったら俺の頭を撫でた。
「はぁ?!何すんだよ!」
ほらちゃんと不快ですよって言葉が即座に口から出てる。桑田とは違って本気で嫌がってる顔してるはずだ。咄嗟に手を払わないのは腐っても三井サンは先輩だからだ。
「お前も桑田も癖毛だけど触り心地が結構違うよな。」
三井サンは俺の言葉など気にもせず撫で続けている。
「宮城はがっちりセットしてるのに結構ふわっとした手触りだな。桑田の方がちょっとごわっとしてる。」
お前は癖毛ソムリエか。だから苦労してセットしてんのにそんなに掻き回すと乱れるだろうが。
「そんでこのふわっとしたとこと刈り上げてるとこの感触の差がたまんねぇわ。」
刈り上げた俺の後頭部を三井サンの指がさりさりと往復した。
「しつけぇんだよ!乱れるからやめろ!」
今度こそ手を払いのけて怒鳴る。やっぱり三井サンはちっともそう思ってない口調で「悪ぃ悪ぃ。」と笑っている。
俺は距離を取るために体育館の端に移動した。ドッドッドッと心臓が早鐘を打っている。俺にも、他のやつにもそんなに軽率に触るんじゃねぇ。
後頭部を滑る指の感触がまだ残ってる。背筋に走った痺れを早く追い出さなければきっとまずいことになるだろう。
(だから、乱れるからやめろって言ったんだよ。)
乱れるのは髪ではなく心の方だった。
これが恋だと自覚するのはまだ先のことだ。