自慢じゃないが俺はチョコなんて肉親以外からほぼ貰ったことがない非モテ男なのだ。恋人ができて初めてのバレンタインにチョコをもらえると期待して何がおかしい?
「去年は、まぁお前のこと好きだったし卒業前で最後だと思ったからバレンタインに便乗してチョコを渡したけどよお、俺は元々もらうの専門の方だから今年はお前からもらえると思い込んでたんだよ!言っとくけど今日は学校で渡されそうになったの全部断ったんだぞ!恋人がいるから受け取れねぇって。」
「クソっ、さらっとモテ自慢しやがって!でも断ってくれてアリガトウゴザイマス!」
「なんでカタコトだよ、どういたしまして!!」
俺たちはここで吹き出して言い合いは終わりになった。ひんやりしたベンチに並んで腰を下ろす。
「あー、俺たち間抜けだな。」
「そっすね、直接やりとりできる最後のバレンタインだったのにね。」
俺は卒業したらアメリカ留学が決まっていて数年は帰国しない予定だった。
だから本当はチョコなんかなくってもこうして会えるだけでもいいのだ。ぎゃあぎゃあと言い合いするのも三井サン相手だと楽しい時間でもある。
「あ!」
「うわ、何?!」
三井サンが急に鞄を探り出したかと思うと、ドヤ顔で何かを取り出した。
「チョコレートあったぜ!」
「めっちゃ食いかけじゃん!」
三井サンの手には三分の一ほど欠けて銀紙が折り込まれた板チョコが握られていた。どう見てもバレンタインとは無関係のいつから鞄に入ってたのかも怪しい代物である。
「チョコには変わりねーだろ。」
そう言いながらチョコをバキッと割って半分手渡してくれた。
「あざーす。」
食べかけのチョコレートを半分こして夜の公園で食べるっていうのも青春ぽいよなーと俺は満更ではない気持ちでチョコを齧る。ミルクチョコレートの甘さが口の中に広がった。そんな細やかな幸せに浸っていると横から三井サンに肩を叩かれる。振り向くと三井サンがチョコをひと欠片口に咥えて「ん」と言いながら目を瞑った。
「ゔぉえーーーーーー!!」
俺の口から訳のわからない叫びが漏れた。ちょっともうやだこの人なんなの!!口移しだよね、これっ!?
「急にそういうのぶっ込まないでよ!無理っ、心臓がもたないっ!!」
「なんだよ、お前こういうのやりたいって前に言ってたじゃねーか。」
「言った、言ったけど!アンタね、自分の威力の高さを知らなすぎなんすよ!」
「はぁ?なんだよ、したくねーのかよ。」
三井寿のキス待ち顔の攻撃力に一番無自覚な本人が拗ねた顔をする。
「したいに決まってんだろ!!」
三井サンがチョコを再度咥えるやいなや、俺は噛みつく勢いで口付けた。