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「落とし物」

 学校以外で、あのロン毛の三井サンを見るのは初めてだった。まぁ自分は何かと絡まれやすいタイプだと自覚があるのでヤンキーがうろつきそうな場所には寄り付かないよう気をつけている。今日はたまたま家に誰もいないので外食ついでに大きめな本屋と服屋をのぞいていたら思ってたより遅くなった。家までの近道と選んだ道が、あ、ここヤバい感じという場所だった。俺は近くにあった自動販売機でポカリを買うとそれを手に持ったままランニングを始める。ただ歩いているよりランニングをしている方が絡まれにくいと学習していた。そしてその途中でサラサラのロン毛が遠目に見えた。なんで見つけてしまうのか。三人くらいのガラの悪い男達と三井サンが睨み合っている。声は聞こえないがあれは今から喧嘩が始まりそうな雰囲気だった。放っておけばいい。喧嘩しようが何しようが知ったことではない。ただいつもは側に侍っている番長達の姿が見当たらない。思わずチッと舌打ちが漏れた。これはそう、一対三みたいなのが気に入らないだけだと自分に言い聞かせながら手に持ったポカリを大きく振りかぶる。俺の投げたポカリは今にも三井サンを殴ろうとしていた男の側面に見事に命中した。「誰だコラァ!」と想像通りの台詞をそいつらが吐いてこっちを見た時には俺は全速力で逃げ出していた。

追いかけてくる気配を感じるが捕まるほど間抜けではないし姿だって見られてない自信がある。そしてこの状況で喧嘩を続けるほどあの人も馬鹿ではないだろう。いや、どうでもいいんだけどね。

 次の日、部室に行こうとすると向こうから三井サンが歩いてくるのが見えた。俺も三井サンも一人で、こういう時は声をかけてこないので目線を合わせにようにしながらすれ違う。しかし今日は「おい。」と声をかけられる。因縁をつけられるのは面倒だなと思ったが俺の返事を待つこともなく「落とし物だ。」と言いながら何かを放り投げてきた。俺は反射的にそれをキャッチする。それは擦り傷と一部へこみが入ったポカリの缶だった。
「な!?」
 思わず驚いた声を出してしまった俺に、悪戯が成功したとばかりに軽く笑い声を上げて三井サンはそのままスタスタ歩き去っていった。

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