『何やってんだか』
「え、三井サン、あんた童貞どころかキスすらしたことないの?」
何の話からそうなったのか、屋上で俺は驚きの声をあげた。
売店で買ったパンを持って屋上に上がる。いつもならヤスととる昼飯だが今日は家の用事で休みなので一人だった。天気のいい屋上は人気の場所だと思うかもしれないが、ここ湘北では違う。なぜなら、
「あ、宮城じゃねーか。」
屋上に上がった途端ガラの悪い連中がこちらを睨んでくるからだ。3年生の堀田さんをはじめとする不良グループが屋上にたむろしていたり、生意気な生徒を囲んだり(されたのは俺だが)してるのでほとんどの生徒は寄り付かない。まぁ今は色々あって悪いことはしていないがガラの悪さとイキリ具合は相変わらずなので普通の生徒はそんな変化を知りはしない。
「おう宮城、珍しいな。ここで昼飯か?」
そんな不良どもの真ん中に相変わらずでーんと居座って弁当を食っているのがバスケ部に戻ってきた三井サンだ。
「まぁね。ここ、いいっすか?」
一応断りを入れつつ三井サンの隣に座る。
色々と、本当に色々とあったのに並んで飯を食うようになるなんて変な感じだがそんなに悪くもない。そして色々話しているうちに冒頭の台詞にたどり着いたわけだ。
「これもノーカンっすか?」
俺の問いに、
「おお、ノーカンだな。」とケロッとした顔で答えた。マジか。(ここで堀田さん達がまた何やら叫んでいたがちょっと省略)
「ノーカンだけど、なんでお前にいまされてんのかはちょっと不思議なんだが?」
三井サンの台詞に俺だって自分でも何やってんだと思った。なんで三井サンに…
「あーーーーーーっ!!!」
俺は大声で叫びながら地面に突っ伏した。いや、ちょっと待って、待って信じらんない。俺はなんでファーストキスを三井サンなんかにしちゃったの!?死にたい、ここから消えたいっ!!
俺の言葉に堀田さん達は今度は大爆笑し始める。くそー、笑うなら笑えよ。ファーストキスは彩ちゃんとと決めてたのに(付き合ってもいないけど)なんでよりにもよってこの人にしちゃったんだよ俺!
そんな俺の肩を叩きながら三井サンは、
「ほら、こんな時こそ男相手はノーカンの法則だぜ。」
と言って、がははと笑った。
この時ほど三井サンの鋼のメンタルが羨ましいと思ったことはなかった。
「いやいやアンタ、グレてた時に何してたの?」
悔しいが顔がいいことは認めざるを得ないこの先輩がグレているときに女関係で色々あったとしてもおかしくないと思っていたのだがそうではないらしい。
「うるせーな!徳男達と遊んでる方が楽しかったんだよ!」
三井サンの言葉に堀田さん達が、三っちゃーん!と野太い歓喜の声を上げるので、
「ま、アンタは女より男にモテてるもんなぁー。」と笑ってやった。
「モテてねーわ!男とのキスなんてノーカンだからな!」
突然の爆弾発言に屋上の空気が凍った。
「待って、三っちゃん、そんな話初めて聞くけど!?」と泣きながら詰め寄る堀田さん達を押し退けて、「マジで男とはあるの?」と興味津々で俺は尋ねた。
「グレ始めた頃とかちょいちょいあったなー。完全にナメられてたし揶揄われてたんだな。」
三井サンは本当になんでもないことのようにそう言った。時々感じるがこの人の感覚はちょっとズレてるとこがある。それとも虚勢なのか。俺はちょっと確かめたくなって、頭突きをかましたことのある三井サンのその口に、ちゅっと口付けてしまった。