ファリアが酷く弱った子犬を拾ってきた。病弱なその子犬は何度も死にそうになりながらもファリアと俺が頑張って世話した甲斐あって成犬になる頃には見違えるほど元気な犬になった。ファリアはそれをとても喜んでいたし俺だって嬉しかった。だが一つ問題がある。
「コリンズ!」ファリアの俺を呼ぶ声が聞こえた。俺はダッと駆け出してファリアの元に行くが、俺より先にそいつがちゃっかりファリアの側で尻尾を振って座っている。
「なんでお前が先にいるんだよ!」俺の抗議などお構いなしだ。そう、こいつは何故かファリアが俺の名を呼ぶと、
自分が呼ばれたかのようにやってくる。俺より遠くにいても素早く走ってくる。本当の名前を呼んでも走ってくるから自分の名前をコリンズと思ってるわけではないようだ。ファリアの横でこちらを見上げるその顔がなんだか得意げで、俺はなんだか勝負に負けてるようで悔しいったらありゃしない。
そんな日々はだが長く続かず、彼に貰い手ができた。ここでずっと暮らすよりちゃんとした家があったほうがいいとファリアは積極的に貰い手を探すがお別れの時は寂しそうである。俺が「幸せにね」と頭を撫でると彼は鼻を鳴らして、なんどもこっちを振り返りながら新しい家族とともに去っていった。
勝手にライバル視していた所為か、流石にちょっと寂しいなと思っていたらファリアが「元気を出せよ」と肩を叩いた。いやそれは俺がファリアに言う台詞だよと言う前に、あいつはお前に懐いていたからなぁと呟いた。
え?っと返せば、子犬の頃にお前が世話したからあいつはお前が大好きだったよと言う。
ああそうか、あいつはファリアに呼ばれたから走ってきたんじゃなくて俺が来るからあんな顔して俺を見てたのか。知ってたらもっといっぱい撫でて遊んだのに。でも知ってたらもっと寂しくなってたんだろうと思う。
俺はもう見えない姿に、幸せになるんだよと心の中でもう一度呟いた。