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ヌードモデルしてる清光くんと画家先生…

ヌードモデルしてる清光くんと画家先生(a) 

大学の皆は知らない。ヌードデッサンのモデルのバイトをしてること。お金のない暮らしの中で、それは清光くんにとってただの稼ぎの良いバイトでしかなかった。
画家の卵たちの中には、この神聖な場に良からぬ気持ちを持ち込んでしまう者もいて…。
そっちも結構いい稼ぎになるから、清光くんにとってはラッキーくらいの気持ちだった。そういう奴は、画家にはなれずに堕ちていくけれど…。
だからとある人物の紹介で知り合ったその人も、そういう有象無象のひとりだと思っていた。清光くんがさらりと布を落とした瞬間、口をあんぐりあけて筆を落としたものだから。
「なに?…惚れちゃった?」
くすりと笑ってからかうと、西洋人形のように美しい顔立ちのその人は、慌てて筆を拾って凄まじい勢いで狂ったようにデッサンを始めた。
「また…お願いできるか」
てっきり誘われると思っていたのに、その日はそれきりで。
頬を真っ赤に染めたその人にもじもじしながら言われて、清光くんは自分のほうが落ちてしまった事に気がついた。

ヌードモデルしてる清光くんと画家先生(a) 

後で聞いたところによると、その人は駆け出しながらもその才能を大きく評価され、未来を期待されている画家先生だったらしい。ここ最近、スランプ気味で初心に帰りたかったのだとか。
俺なんかが邪魔できないじゃん。
…仕事に、専念しよう。
せめてもあの人が、スランプを抜け出せるように。
清光くんはモデルの勉強をめちゃくちゃめちゃくちゃがんばった。どうしたらあの人の役に立てるか。その一心で。
身体づくりやポージングの勉強、心積もり。ほんとに軽いバイト感覚だったことを恥じた。
そうして二度目の訪問。先生は前のように筆をぽろり、なんてことにはならず、ものすごく真剣な顔で筆を走らせた。清光くんもそれに真剣に応じた。
「次もお願いするよ」
そう言われたとき、清光くんは純粋に嬉しかった。お金のことなんて頭から吹っ飛んでいた。
だけど帰り道、ふと気付いてしまった…先生がスランプを脱したら、こんな初歩的なデッサン、しかもバイトレベルのモデルなんて必要なくなるのでは?
清光くんは知らない。画家先生がこの日、「ついに僕のミューズを見つけたぞ!!」とほうぼうに言って回っていたことを。

ヌードモデルしてる清光くんと画家先生(b) 

「ヌードモデルをしてくれないか」
憎らしいくらい美しい顔のその男は、開口一番そう言った。
「は?」
それはなんのプレイですか???

清光くんは美術の美の字も知らぬ、貧しい男娼のひとりだった。
うら寂しい路地の片隅に、半分崩れたように立っている店。そんなでも客はあるもので、なんとか男一人生きていけるくらいの稼ぎはあった。
その日清光くんを指名した男はどう見ても日本人じゃなくて、しかもこんな場末の店には全く似つかわしくない、仕立ての良い服を身に纏っていた。
物好きな観光客…?にしてもこんな裏通りに?
頭の中ではてなが飛び交う清光くんを前に、男が口にしたのはおよそ想像もしなかった台詞だった。
「ヌードモデルを、してくれないか」
清光くんが呆然としてるものだから、男はもう一度、同じ言葉を繰り返した。
頭の中で一生懸命咀嚼して…そのうちに、清光くんはだんだんと腹が立ってきた。
「馬鹿にすんなよ」
驚いたふうの男を押し倒して、噛み付くようにキスをする。
「金持ちだかなんだか知らないけどさ、俺はこうやって生きてんの。あんた、わかってて指名したんだよね?だったらさっさとやることやって金払えよ」

ヌードモデルしてる清光くんと画家先生(b) 

男からしたら、支離滅裂でとんでもなく理不尽に聞こえたと思う。
だけど清光くんは真剣だった。泣きたかった。
金持ちの道楽に付き合う、それはいつもの仕事だって変わらない。けどなんだか今のこの生き方を、憐れまれたような気がして。
確かにしたくてしてる仕事じゃない。他に道なんてなかった。だけど。
だったら同じことだろう?こっちのほうが遥かにマシじゃないか。
そう言われた気がして。
それは違う。これしかなかったけれど、清光くんは誇りを持ってこの仕事をしている。
「…悪かった」
男は静かに謝罪した。泣きたくなるくらい優しい声だった。
その日はとんでもなく優しくされて、清光くんは何度も泣いた。
そのうちに、この男のことが知りたくなった。
「ねえ」
シャツのボタンを留め始めた男に、背中を向けながら声をかける。
「なんで、あんなこと言ったの」
男は手を止め、こちらを見たようだった。
「そうだなぁ…」
笑みの形に、空気が揺れて。
「お前さんが、後の世に残したくなるほど美しかったからな」

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