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グレゴリー・ケズナジャット『開墾地』を読了。今回の芥川賞の候補作のひとつにもなっていました。 

故郷のサウスカロライナを離れ、日本の大学の博士課程で勉強中のラッセルは、夏休みに父親がひとりで住む実家に帰省します。父親は若い頃にペルシャからアメリカへ渡り、この地でずっと暮らしています。従兄弟のアミンはペルシャ人コミュニティもあるLAから時々遊びに来ては、父親にLAへの移住を薦めるのですが、ラッセルの父親は頑なにこの地を離れず、庭と家を整え、夏になると芝生に侵入してくる葛との戦いを続けています。

葛に覆われていく故郷の古い家は、押し寄せてくる他言語・他文化の息詰まるような圧迫感も連想させます。放置するとすぐ繁殖し家を飲み込もうとする葛を、ひとり黙々と伐採する父親は、自己のアイデンティティを守るために足を踏ん張り続けている姿を描いているのかもしれません。

母国語とは違う言語を使って生活している人が母国語とも離れ、他言語にも完全に同化しているわけでもない狭間の感覚が、とてもうまく表現されているように思いました。美しい小説なので読み終わるのが惜しかったです。

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